第6章 トラウマ
雨がひどいから、兄が学校に迎えに来てくれることになった。蜂楽もついでに送ってもらう。私の用事を手伝ってくれて遅くなってしまったし。
ブルーロックフィーバー中の兄は、蜂楽に会うなり満面の笑みで握手を交わし、助手席に蜂楽を乗せて走り出した。
暗闇の中、大粒の雨が降っていてせわしなくワイパーが動く。
「蜂楽くん、本当にすごかったなぁ!鳥肌ヤバかったよ。今日は晩飯食べて帰って!ばあちゃんには話してるから」
「マジで?やったー♪」
いや、聞いてないんですけど。確かにお母さんの帰りが遅いって言ってたし明日は土曜日で休みだけど。
うちの家族、蜂楽くん気に入ってるんだよなぁ。
柚が思った通り、家では祖母が笑顔で出迎えた。
「蜂楽くん、会いたかったのよー」
「ばあちゃん!俺も!お邪魔します♪」
「蜂楽くんが来るっていうから、張り切って唐揚げたくさん揚げちゃったわ。いっぱい食べてね」
「わーい!」
まるで本当の孫みたい。
寡黙で仏頂面な祖父にも蜂楽は臆せず「こんばんは!お邪魔します」と挨拶して、食卓についた。
夕飯の後、祖母がつくってくれたおしるこを食べながら蜂楽はご満悦だ。
あれだけ唐揚げ食べて、よくまだ食べられるなぁ。
ふと、蜂楽は周囲を見渡して不思議そうに首を傾げた。
「ねぇ、委員長のお父さんとお母さんは?まだ仕事?」
「父は海外に行ってるから、一緒には暮らしてないの。母はずっと前に離婚してていない。……そういや蜂楽くんのお母さん、まだ?」
両親のこと、特に母親のことには触れられたくなかった。こんな雨の日には尚更。いやな記憶を思い出してしまうから。
夕方から降り始めた雨はざぁざぁと音を立てて降り続いていた。
「あちゃー、雨で新幹線止まっちゃったみたい」
「大丈夫かな。帰ってこれるの?」
「今日中は無理かもだって。でもひとりで留守番は慣れっこだから、へーきへーき」
蜂楽はスマホを見ながら、おしるこをごくんと飲み込んだ。
「それなら今日は泊まって行きなよ」
え?
「そうね。雨もひどいし」
ええ!?
「いいの!?お世話になります!」
なんなんだ。この急な展開。