第1章 隣の席の蜂楽くん
そして球技大会の日、テニスの試合を終えた柚はソフトボールの試合を応援していた。
ちょうど打席は蜂楽の番。持ち慣れないバットをフルスイングすると、ボールに当たった。持ち前の俊足活かして2塁のホームベースまで走る。ツーベースヒットだ。
わぁっと歓声が上がって、クラスメイトと共に柚も拍手する。
次のバッターが蜂楽に続けとばかり、初球からバットを振った。軌道が逸れたファールボールは観客席へ飛んで行く。ゴンッという鈍い音とともに柚の左側頭部に直撃した。
(いったぁ…!!)
激痛と周りの生徒の悲鳴。ばたりと横に倒れた後、柚の記憶は途切れる。
「きゃー!小鳥遊さん、大丈夫!?」
「保健の先生呼んで!」
「委員長!!」
倒れた柚の元に蜂楽が駆けつける。ひょいっと軽々柚を抱き上げると、騒いでいた他の生徒が呆気に取られるのを尻目に保健室へ向かった。
「いたた…」
柚の目が覚めたら、保健室のベッドの上だった。ボールが直撃した左側頭部がずきずき痛む。
誰が保健室に運んでくれたんだろう。先生かな?
「……ヘイ、ジーコ、パス。メッシ、パス、パース!」
ベッドを仕切るカーテンの向こうから何やら声がする。
起き上がってそっと覗くと、隣のベッドで蜂楽がすやすや眠っていた。
(なんで??)
寝言はともかくそのあどけない寝顔はなんて可愛い生き物。
まったく、蜂楽廻には敵わない。