She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第17章 いっしょのよる
じーっ、と向けられる視線。
私室に移動して歌謡曲を流しながら読書をしていた侑士は、手元の本をベッドに伏せ置くと、1ページも進んでいない真珠の手元の本を取り上げた。
「穴、空くて」
見すぎや、と苦笑いする侑士を見上げる真珠。
「だって、気になっちゃって」
「そないに気になるなら、外しとくわ」
デスクに置きかけた眼鏡。
「はずしちゃうの?」
「気になるんやろ?」
侑士が持つ眼鏡を受け取ると、弦を持ってそっ、と掛け直す真珠。
「今は、掛けててほしい」
「よぉわからん子やねぇ」
ええけど、と真珠の隣に腰を落ち着ける。
やはり、ずっと感じる目線に、侑士は背後のベッドに乗せた腕で側頭部を支えて向き合った。
「そないに気になる?」
「お祖父様がその眼鏡を通して見てきた景色は、どんな景色なのかなぁ、って」
「どないする?血まみれの施術室ばっかりやったら」
「そういうことじゃなくてっ!」
ハハッ、と笑う侑士。
「俺な、小ぃこい頃、めっちゃビビりやったんよ」
うん、と返すと、来いや、と腕を引かれて組まれた脚の上に座る。
「いーっつも、オカンか姉ちゃんの後ろに隠れとって
じっちゃん...オトンのオトンな。
よお、『男のくせに』て言われた」
するり、と掴んだ手を弄んでいる手指を見つめる。
「それが嫌で、じっちゃんの事はあんま好きやのぉて。
じいちゃんは、テニス教えてくれたんもあるけど、男がどぉや、女がどぉや言う人や無かった。
小さい頃な、テニスでリターンやった時、こっちん様子伺う相手の視線が苦手で、顔反らしてしまいよったんよ」
見つめられるのが苦手な質は、よく知っている。
「どうしても、顔上げきらんでリターンできへんのを見かねたじいちゃんが、『目を隠せばええんや!』て。
最初、『気配で取れ!』言われて、目に鉢巻巻かれてボコボコボール投げられてん」
この辺痣だらけ、と今は見る影もない、腕を指す。
「『なにしとるんや!』ってばあちゃんから大目玉くろうて、落ち着いたんが眼鏡」
そう言って外した眼鏡。
「最初は度無しのやつで、じいちゃんが死んだ時、形見分けでもろて、レンズだけ変えてん」
そん時は老眼鏡やったから、と脚の間に座る真珠を抱き寄せた。
「見つめんといて」
「ゆうが見つめてるのに」
コツリ、とぶつけた額から、笑う真珠の振動が伝わった。
