She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第17章 いっしょのよる
「ドイツまで何時間くらい?」
「フライトは12時間くらいやで」
半日か、と腕時計を見る。
「夜には、着くのかな」
「こっちのが6時間進んどるから、着く頃向こうは昼すぎやね」
おとん、休みなんやろか?と携帯を操作する侑士。
「今、見送ったで、と」
即既読で返信が来る。
-カズちゃん、ちゃんと飛行機乗ったか?-
-乗ったと思う。
搭乗口のギリまで間違わへんよう見送ったで-
「あとは添乗員さん任せやで、おとん」
神のみぞ知る、と携帯を上着のポケットに入れて真珠の手を取った。
「ねえ、和美ママの方向音痴ぶりってどんな感じなの?」
不安そうな真珠と展望デッキへと向かう。
「同じ県内で越した時、一人でちょい遠出したあと、前の家に帰ったことあったで」
「...え?」
「しかも、越してから3カ月くらい経った頃に。
なにを勘違いしたんか、タクシーで行ったんにわざわざ地下鉄で引っ越し前の家まで行って、『鍵が開かん!』って焦って」
乗り込んだエレベータは少し混み合っていて、壁際に真珠を立たせ、向かい合って少し距離を詰める侑士。
「おとんに『鍵を変えられた!』『えりちゃんもゆうちゃんもいない!』『泥棒!?いや、誘拐かもしれない!』て電話かけて、無人の家の前で慌てとるところをご近所さんに見つけられて、『忍足さん、引っ越し終わらないの?大変ね』言われて引っ越したこと思い出したんや」
想像以上だ、と真珠は展望エレベータから見える飛行機に、不安になってきた、と侑士の手を握る。
展望デッキのある階層で降り、滑走路を見下ろす窓際のカウンターチェアに腰掛けた。
「覚えて慣れれば心配ないんやけど、ちょっと抜けとるとこあるさかい、日頃と慣れへんことさせるん、不安なんや」
「じゃあ、『一緒に行こう』っていうのは...」
「ナビゲーター兼お守り」
ああ、やっぱりそういう、と飛行機が動き回る滑走路を見下ろした。
「和美ママ、飛行機、間違えないよね...?」
「まずはそっからやんな」
「いつ、帰ってくるの?」
「ドイツに二晩居る言うてたから、4日後...時差の関係で実質5日後やね」
乗ってまえばまず一つ安心なんやけど、と侑士はカウンターテーブルに頬杖をついて、ちゃんと帰ってきぃやぁ、と母に届かない溜息を漏らした。
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