She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第17章 いっしょのよる
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それじゃ、と振り返る。
「気ぃつけや」
うん、と侑士が差し出してくれた荷物を受け取る。
顰めっ面に、つい、こみ上げるものがあり、口元を押さえる。
「大丈夫かいな」
少し呆れたような声に、だって、とハンカチを取り出す。
「二人だけ置いていくなんて、初めてでっ」
そう言って、侑士の母は目元をハンカチで拭った。
講義で来れなかった恵里奈に代わり、侑士と見送りに来た真珠の手を取る。
「マコトちゃん、えりちゃんとゆうちゃんをよろしくね」
「わかりました。
ドイツ、おとうさんと楽しんできてください」
「御土産、マコトちゃんにも買ってくるからね!」
楽しみにしてて、と第二の娘のように思い始めている真珠に言う。
「忘れもん、無いか?
向こうで使う分の現金、ある?」
えっとね、と確認して、オッケー!と笑う母。
「おとんに迎え、頼んどるよね?」
「もっちろん!」
ならええけど、と少しだけ安心要素が増えた侑士は少し笑う。
「ゆうちゃん、心配症ねぇ。
ママ、ドイツなら何度か行ってるんだから」
「なんべん行こうが心配やって。
なあ、やっぱ予定組み替えて、学校休みの頃に一緒行こうや」
「むーり!チケット取っちゃったもん」
「せめて先に言うとって欲しかった...」
(ゆうもお父さんが恋しいのかな。
家に男の子一人だもんね、さみしいよね)
腑に落ちてない顔の侑士の手を握る。
「じゃ、いっきてまーす!」
着いたら連絡するねー!と手を振りながら搭乗口へ向かう母に、前見ぃ!と叫ぶ侑士。
「ほんまにあかん。
心配や、大丈夫かいな」
「大丈夫だよ。恵里奈だって、私もいるよ」
さみしくないよ、と見上げた。
「いや、己の心配はしてへんのよ」
「違うの?」
お母さんがいなくてさみしいんだろう、と思っていた真珠は、はて?と首を傾げる。
「16にもなって1週間程度の留守番で不安になるかいな。
不安なんはオカンの方や」
「でも、ドイツ、何度か行ってるって」
「ちゃうねん」
首を横に振る侑士は、遠くを見た。
「あん人、たまに信じられへんポカすんねん」
「ん?」
「しかも、方向音痴やねん」
「お?」
「ここから正しく飛行機に乗れるかも不安やねん」
「和美ママー!?」
叫んだ真珠に、もう遅いで、と言った侑士は、閉じられたゲートに手を合わせた。
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