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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第16章 穏やかな時


チョコッ!と言う甲高い声。

走ってくるのは、小学生低学年くらいの男の子。

「どこ行ってたんだよっ
 勝手に走っていっちゃだめだじゃないかっ」
めっ!と叱っている少年に、真珠が声を掛けた。

「チョコちゃんの家族の人?」
「うん」
頷き、チラチラと侑士が持つリードと真珠を見比べる少年。
「一人か?
 親かきょうだい、いてへんの?」
「お姉ちゃん、いる」
侑士の問いに小さく答えると、あの、とリードを指さす。

「姉ちゃん、呼んできや。
 また走り出したら、自分、引き摺られるだけやで」

飼い主に会えて嬉しいのか、前脚を上げている犬のリードを手に巻き付け、侑士は、少し、脚を踏ん張った。
確かに、と立ち上がれば自分と変わらないくらいの体長があるチョコを撫でながら真珠が言った。

「また離れるのが心配なら、一緒に行こうか?
 リードは...お兄さんに持っててもらってさ」
自分も引きずられてしまうだろう、と侑士を見上げる。

不安そうに二人とチョコを見る視線。

お姉さん、いるかな?と辺りを見ていた真珠は、何かを探しながら歩き回っている親子に目を留めた。
「ママッ!」
そう言って走り出し少年を追って、ワンッとチョコも走り出し、待ちやっ!と侑士も駆け出す。

「れいとっ!チョコは!?」
駆け寄ってきた息子に気付いた母親は、待ちぃやって、とリードを引く侑士を見る。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんが、見つけててくれた」
遅れてきた真珠を指し、母親の陰に隠れるれいと。

「すみません、ご迷惑を...」
「れいとのせいだからっ」
そう言った姉を、こら!と母が叱る。

「れいと一人じゃリード持てないって言ったでしょ」
「だって...」
「ママ言ったよね?『リードはここあが持ちなさい』って」
「ごめん、なさい」
「お兄さんたちに会えてなかったらどうなってたと思う?
 チョコ、車とぶつかって死んじゃってたかも知れないのよっ!?」

怒られて落ち込む姉弟。


「本当に、ご迷惑おかけしました」
深々と頭を下げる母親にリードを渡す。

「あの、ご連絡先を...」

顔を見合わせ、侑士を見上げる真珠が首を振る。

「捕まえたん、たまたまやったんで。
 散歩、もうちょい大きゅうなるまではオカンと行き」

な?と言った侑士に、うん、と頷いたれいと。

リードを持つ母親と手を繋ぐ姉弟を見送った。

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