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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第16章 穏やかな時


楽しみ、と購入したレコードを抱える。

「マコト、どっか行きたいとこあるか?」
「これと言っては無いかなぁ」
「天気ええし、散歩でもしよか」
「いいね。
 あ、ここからなら向こうにちょっと行ったら、公園なかったっけ?」
「あったな」
「行ってみよう」

公園なんて久しぶり、と侑士の手を引く。

「♪〜」
「ご機嫌やねぇ」
「ご機嫌ですよ〜♪」

大好きな昭和歌謡を口遊みながら、スコートの裾をひらめかせている。

遊歩道の脇の植え込みが、ガサッと揺れたのに気付いた侑士は、真珠の手を優しく引いて立ち止まる。

ワンッ!と飛び出してきたのは、真っ白な大型犬。

「びっくりしたよぉ」
目をまん丸にして胸を押さえる真珠。

ハッハッ、と舌を出して二人の周りをくるくると回る犬の首元から垂れている赤いリードに気付いた侑士は、引きずり回していたそれを拾い上げる。

「お前、どっから来てん?」
辺りを見回してみるが、家族らしき姿は見当たらない。

「リードつけてるから、お散歩中だと思うけど」
「それらしい人がおらへんね」

ホンマにどっからきてん?と大人しく座った犬を見下ろす。

「あ、この子タグつけてるよ」
隣にしゃがみ込んでいた真珠がかき分けた首元の毛に隠れていた小さなタグ。

「『チョコ』。チョコちゃんって言うの?」
そこに書かれていた名前に、女の子?男の子?と首元を撫でてやっている。

「どちらか言えばマシュマロか綿あめやろ」
「ふふ、確かに」
「ホワイトチョコより白いやん」
「めっちゃツッこむやん!」
可笑しそうに笑う真珠が立ち上がる。

「どうしましょうかね?」
放っとかれんよね、とリードの先の犬を見る。

「とりあえず、管理の人探して預けるか」
向こうに管理室あったやろ、と駐車場側へ歩き出すと、大人しく付き添う犬。

「懐っこいやっちゃなぁ」
「おさんぽ、大好きなのかな?
 チョコちゃん、お散歩好き?」
ワンッ!という鳴き声は返事なんだろうか、と二人と一匹で歩き出す。

管理室を見つけ、すんません、と侑士が中の警備員に声を掛けた。
「なんや、犬、おって」
それが?と言いたげな顔の警備員。

「迷い犬のようです。
 犬を探している人が来たりしていませんか?」

真珠の問いかけに、いや、と警備員が答えた時だった。

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