She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第16章 穏やかな時
立ち寄ったのはレコード店。
「プレーヤーって高い?」
「ピンキリやねぇ。
今は、ワイヤレスイヤホン繋げるやつもあるさかい」
そっか、と棚のレコード盤を捲る。
「ゆうの部屋のプレーヤーってちょっとレトロだよね」
「ひいじいちゃんがやっとった診療所で、軍歌流すために使うてたやつやからね」
「そんなに古いのっ!?」
彼の部屋にあるプレーヤーは、そこまで年季が入っているようには見えなかった。
「もともとは蓄音機やったんよ」
「あのー、お花みたいなやつ?」
「それはか◯は◯波やん」
開いた指先の両手をハーッ!と向けられ、痛っ!と胸を押さえる侑士。
「ジローも出せるらしいで、◯め◯め波」
「天下統一武道会で会えるかなっ!?」
「そないなちっこい手から出る潜在エネルギーなんか、タカ知れとるで」
ひどーい、と笑っている真珠の手を掴んで繋ぐ。
「親戚のおっちゃんが人に頼んで組み直してくれたんを譲り受けたんよ」
「そんなに古いんだ」
あんなに綺麗な音出るのに、と驚いている真珠は、繋いだ手をそのままに侑士の手元を覗き込む。
「あ、『踊り子』」
「どないな曲やったっけ?」
メロディが思い出せない侑士に、えっとねぇ、とサビをハミングで歌う。
「あかん、カップスープのCMしか出てけぇへん」
「あったあった!お湯入れて〜♪って」
それや、と二人で笑い合う。
「『初恋』、好きやしなぁ」
僅かな声で口遊みながら操作した携帯を耳元に当てて何か聞くと、うん、と頷いてレコードを手に取る。
「何してたの?」
「動画投稿サイトで音源聞いててん」
気に入ったから買う、と言う侑士。
「ええ時代になったよ。
ジャケ買するか悩んだら、その場で検索試聴」
「ゆう、実は年ごまかしてる?」
「アホ言いなや。
ピチピチの現役男子高校生や」
「男の子にその表現使うかなっ!?」
やってピチピチやもーん、と次のレコードを捲る。
「どないしてん?」
腕に抱きついて額を当てる真珠の、袖を摘む指先が震えている。
「ツボったんかい」
震えてる笑い声。
ちょっと待って、お願いだから待って、と繰り返す真珠の手を握りながら捲っていたレコード盤が目に留まる。
「セーラー服を♪脱っがっさっないで♪」
「仕留めに来ないでぇ」
急に歌い出した侑士の声に、真珠は耐えられずにその場でパタパタと脚を鳴らした。
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