She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第15章 さよなら、初恋
震える声を必死に堪えて、彼を見送る。
「自分も早ぅ帰りや。
暗がりに女ん子一人は、危ないで」
その優しさに、涙がこみ上げる。
「ありがとう」
なんとか震えずに言えた言葉に、返事はなかった。
グズ、と鼻をすすって天井を見上げる。
「優しくするなよ、バカぁ」
長かった初恋は、5分で終わった。
✜
トボトボと帰路につく。
(明日、休もっかな)
気まずい、とノロノロ歩く。
ショーウインドウに写る自身の姿。
真っ赤に腫れた目。
リップの剥がれたカサカサの唇。
彼と同じクラスになってから、念入りに整えるようになった髪がサラリと風に舞うのも悲しい。
(もう、意味ない)
溜息をついて交差点で立ち止まる。
絶対親になんか言われる、と顔を上げると、曲がり角に喫茶店。
家に帰る気になれず、一度も入ったことがない店へと脚が向いた。
扉の前まで来たが、気軽に入れる雰囲気がなく、やめた、と店沿いに歩き出そうとした。
(あ、)
さっきまでいた交差点が見える窓際。
(見つけちゃうなぁ)
一人だろうか。少し俯き気味に座っている。
僅かに、唇が動いているのに気付いた。
(誰か、いる?)
見つめていると、彼は自分の手に向かって話している。
ふと目線を上げると、顔を隠すような仕草をした。
その手には、白いなにか。
子どもにぬいぐるみを使って話しかけているような動きに、何してるんだろ、と凝視する。
「あ、」
窓のサッシの陰から見えたのは、綺麗な女性。
彼の手を取り、何か話した彼女に、驚いたような表情をした横顔は、ゆっくりと破顔していく。
自分に向けられることはないその笑顔が、やっぱり好きで、信号が点滅しだした交差点を駆け抜ける。
溢れそうな涙を、無理やり拭う。
すぐに息が上がって、それでも早足に歩く。
明日は学校に行こう。
もし休んだら、きっと彼は気に病む。
でも、少しだけ距離を置いて。
彼と彼女のように笑いあえる人を見つけられた時。
やっとこの恋が終わる。
その時まで、一応のさよなら。
さよなら、初恋
初恋は、叶わない
✜