She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第15章 さよなら、初恋
(何もしなかったのは、私)
少しでも、彼に近づけるように努力していただろうか。
どこかで、どうせ、と諦めていた。
誰とも付き合う気がない、と言っていた彼に油断していた。
「告白くらいは、しとけばよかった」
そう呟き、よし、と教室を出る。
中休みの今、多分、彼は図書室に向かっている。
時間から見て、そろそろ帰ってくる頃。
階段を駆け下りて、人の少ない廊下に出ると、向こうから歩いてくる人影。
「忍足君っ」
少し先を過ぎた人影に駆け寄る。
「今日っ部活?」
「せやで?それが?」
(あれ?)
いつもと少し、雰囲気が違う気がして、目線を落とす。
「あのっ」
勇気を出して顔を上げたが、彼は本を片手に持ち替えて携帯に目線を落としている。
あ、と唇を噛む。
短く文を打って、なんやったっけ?とこちらを向いた彼。
やっぱりいいや、と言いかけた。
「...部活のあと、時間くれる?」
「ええけど、」
「ありがとう」
頷いてくれた彼の顔を見れず、隣を走り抜けた。
(何もしないで終わるよりいいっ)
先に結果が分かってしまったとしても。
携帯に向けられた視線との間のレンズ。
画面を反射したそこに見えたのは、-今日、おうちに行っていい?-という一文。
やりとりの相手はわからないが、「おうち」という言い方は、たぶん女の子で。
それに、ええで、と答えていた彼の笑顔が、ほかにこんなに優しく笑う人がいるのかというほどに穏やかで。
うじうじは、もう嫌と言うほどしてきた。
もういい加減、はっきりしよう。
この先、あの時、と後悔するなら、言っておいて良かったと思いたい。
✜
彼に伝えた待ち合わせ場所は、まだまだ生徒が多く往来していて。
もっと、静かな場所に、と考えていたら、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
背をつけていた下駄箱で物音がして顔を出す。
スニーカーから上履きに履き替えている彼。
とりあえず、場所は変えよう、と声を掛ける。
「教室、行ってもいい?」
文句も言わずについて来てくれる優しさが悲しい。
教室に入ると、手にしたノートを捲る。
ある頁で声を上げた。
なんもないで、と再びノートに向いた優しい目線に、両手を握る。
「忍足君が、好きです」
向けられることのなかった目線が重なる。
すぐに逸らされた目線と沈黙に、耐えられなかった。
