She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第15章 さよなら、初恋
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部活終わり。
「あ、しもた。数Ⅱのノート忘れた」
わざとらしく言って、部室のロッカーを閉める。
「数Ⅱ、明日、小テストだぜ?」
「取ってくるわ」
先帰っとって、と向日らに手を振り、校舎へ向かう。
(こんまま、裏門から出よかな)
そうすれば今、帰路についている部員にも会わないし、と往生際の悪いことを考える。
(ええ言うた建前、帰るんはさすがに酷か)
仕方ない、と昇降口で上履きに履き替えると、忍足君、と呼ばれた。
「えっ、と教室、行ってもいい?」
昇降口を指定したはずの彼女は、またねー、と文科系部の生徒が帰宅についている様子をチラ、と見た。
彼女についていくように校舎に入り、自身の教室に入る。
一応、口実用に机に置いて行った数Ⅱのノートを手に取る。
少し離れたところで立ちすくんでいる彼女も、何も言わないまま。
手持ち無沙汰に、手元のノートをめくった。
「あ」
「えっなに!?」
口から漏れた自身の声に、驚いたように声を上げた彼女に多少、驚く。
「いや、なんもないで」
ノートに目線を落とす。
数式が書かれた頁の端に、真珠、と言う文字を見つけた。
(いつ、書いたんやっけ?)
記憶にないそのメモに、なぜか鼓動が早くなった。
丸めたノートを、落ち着き無く手に打ちつける。
「おっ忍足、君が、好き、デス」
同い年の自分に敬語で言った彼女に、真珠が重なり、目を逸らす。
「彼女サン、いるんだよね?」
「おるよ」
そっか、と俯く彼女。
「氷帝(ウチ)の子?」
「自分に教える必要、あるか?」
無闇に真珠の事を話す気にはなれず、口から出たのは冷たい言葉。
「ごめんな、さい。
...誰と付き合ってるのかわかったら、諦めきれるかなぁ、なんて
そうだよね、言いたくないよね。私なんかに...」
溜息のように吐き出された彼女の息に、なら帰ってええ?とラケットバッグと通学鞄を肩に掛け直す。
「うん、あ、ありがとう。
気をつけてね」
また明日、と俯いた彼女。
「おおきに。
自分も早ぅ帰りや。
暗がりに女ん子一人は、危ないで」
ありがとう、と僅かな声で言った彼女の隣を通り過ぎる。
廊下に出る寸前、すん、と聴こえたすすり泣き。
(やりづら、)
静かな廊下を歩きながら、制服のパンツから携帯を取り出した。
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