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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第15章 さよなら、初恋


「忍足君っ」

中休み。
初等部と併用する中等部用の図書館から、一部の大学生も利用する高等部用の図書館が使用できるようになり、2冊の本を手に教室へ帰ろうとした所を女子生徒に呼び止められた。

「今日っ部活?」
「せやで?」
それが?と本を抱え直す。
「あのっ」
何か言いかけた彼女より、ブレザーのポケットで震えた携帯が気になって手に取る。

-今日、おうちに行っていい?-

送り主は真珠。

迎えに行く、と返信を送ってポケットに携帯を落とした。

「すまん、なんやったっけ?」
「...部活のあとっ時間くれる?」
「ええけど、」
「じゃあ、終わったら昇降口、来て」

ん、と頷くと、ありがとう、と横を走り抜けて行った。

教室に戻り、席に着く。
次の授業の用意をしながら、ふと気付いた。

「しまった」

自席で、なして気づかんやったんや、と数分前の自分を嫌悪する。

(すっぽかしてええかな、)

割と心当たりのある約束に、我ながら最低な考えや、と思いつつ、ノートの端にシャーペンを走らせる。

(普通に、彼女おるからて断ればええわ...)

無意味な丸と線を描いていた筆跡は、いつの間にか、真珠、と言う文字を成していて、なぜか、このあとの約束をマコトが知った感覚にとらわれ、慌てて消しゴムで消した。

(て、告られたくらいで...
 ちゃんと断るんやから、後ろめたいこと無いわ)

なにをそんなに、と自嘲する。

(マコトが、他ん男に、告られとったら...)

ざあっ、と胸の奥の方から大きな波のようにやってきた感情に、ん、と鳩尾を擦る。
引いた波に取り残されたように、胸に引っかかったままのなにかが落ち着かない。

シャーペンを放り出し、メガネを外してノートに伏せた。

「寝るなっ忍足っ!」
教師の声に、ぐー、と狸寝入りのいびきを返すと、静かだった教室にくすくすと笑い声が響く。
「起きんかっ」
声を上げた教師に、んんっ、と顔の向きを変える。

「後にしてや、オカン」
寝言を言うと、生徒たちのわっとした笑い声が上がった。

「起きろ」
男性教師の声に、んんっ?とわざとらしく目を擦る。

「オカン、えらい老けたんちゃう?」

再び教室に響いた笑い声。

しかたなく眼鏡を掛け直し、机に肘をつく。

(色々すっ飛ばして明日になってくれ)
まだ暮れてもいない空に、ため息をついた。

 ✜
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