She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第13章 彼の一番かっこいいところ
テニスをしている所を見たい、と言った真珠を連れ、運動公園のテニスコートに来ていた。
空のボールケースを抱えた真珠が、コートの片面に不規則にいくつか並べた。
「こんな感じ?」
「ええで」
ラケットバッグからラケットをひとつ手に、ネットを挟んだもう反面のコートのボールを数個拾った侑士は、ベースラインに立つ。
ラケットで地面に何度か打ち付けたボールを握った左手で、コートを指さした。
「ほな、あっちの3番目から」
そう言った侑士の左手から放たれたボールが、音もなく落ちてくる。
ヒュンッとラケットが風を切る音も、ガットの中央に当たった球が勢いを持って空を切る音も、真珠の耳に確かに届いた。
侑士が指定した、相手コートの向かって左から3番目のケースを倒す。
「おみごと!」
おおー!とコートの外で真珠が拍手をした。
「逆から二番目」
そう言って、新しいボールで的確に倒す。
「手前3番目」
トス前に宣告したケースを確実に倒していく。
ネット際の最後の1本に、侑士は宣告なしでサーブを打った。
ヒュン、とネットとケースの上を抜けたボールの行方を追う真珠。
「え?」
コートでバウンドしたボールは、低く、ネットに向かって跳ね返り、ネット際のケースを倒した。
「そんなのありっ!?」
着地点から鋭角に進行方向へと返ったボールに、真珠はベンチから立ち上がって声を上げた。
「『バックスピン』言うて、球の進行方向と逆向きのスピン掛けて返すと、バウンドした時こっちに返ってくるんや」
「相手に、向かい、ながら...こっち側に...回、転?」
えっとぉ、と空を見上げて、人差し指で玉の回転の向きを確かめながら理解しようとしている真珠。
新しいボールを手に、回転と軌道の説明をしてやる。
「『スライス』言うて、ラケットの面を、球の斜め45度あたりに当てる。
したら、自分の方に向かって回転がかかる」
ほう、と頷く真珠。
「球自体は返すんやから、向こうに押される。
バックスピンがかかるっちゅうわけや」
うん、と頷いてボールの軌道をイメージする。
「ん?その球って打ち返せないことにならない?」
バウンドするとこっちに返ってきちゃう、と指先でボールの行方を示す真珠。
「そんなことあらへんよ」
それを見極めて返すんや、と侑士は頷いた。
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