She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第12章 DATE in HOME
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ん、と渡した皿を、はーい、と受け取って流水で流す真珠。
「こっちはええよ」
冷めたプレートにスポンジから泡をたっぷりと乗せ、油物用のブラシで擦る。
「手慣れてるね」
「マコトもな」
真珠が干し籠に綺麗に揃えて入れた洗い物たち。
「酒蔵ってね、繁忙期が冬場なの」
捲りあげていた侑士のシャツの袖が落ちているのに気づき、捲り直す。
「おおきに」
「お役に立てたなら。
その年のお酒を仕込むのに、蔵人さん達は泊まり込みで作業するの」
「蔵にか?」
そう、と侑士の言葉に甘えた真珠は、シンクに立つ侑士の腰に、後ろから抱きついた。
「24時間態勢で、収穫、精米後のお米と麹菌を合わせて寝かせてって言うのを約一週間」
「大変やなぁ」
「その間、蔵人さん達のご飯の用意するのがおばあちゃんの仕事で、その手伝いをするのが私の冬休みの恒例行事」
「正月、休んでられへんやん」
「だから、お父さんが小さい頃はクリスマスなんてしなかったし、七草粥食べてやっとお年玉もらったって言ってた」
盆と暮れが一緒に来るとはその事、と熱めの流水でプレートを流す。
「麹菌は強くなくて、他の菌に負けちゃうから、仕込みの時期、蔵人さん達は納豆とか他の発酵菌を持つもの、食べないんだよ」
「そんなら、俺、向いとるかもしれんな。
納豆、嫌いや」
「そうなの?」
覚えとこう、と笑う真珠。
「その年、1年間に絞るお酒分を仕込むの。
最近、温暖化、とかいうじゃない?
発酵がうまく進むかって、温度もすごく大事だし、お米の成長を左右するから、醸造関係の人って結構その辺、気になるんだよ。
お米の栽培からしてる蔵も少なくないし。
『今年は冷え込みが遅いから発酵が早い』とか、『コメが育つ夏場が寒かったら、粒が小さくて菌の馴染みが早い』とか」
「なるほどなぁ」
真珠の話だからか、料理や科学は興味と知識がある方だからか、おもしろい、と手の泡を流して、それで?と先を聞く。
「ごめん、勝手に話し出して今更だけど、楽しい?」
「え?おもろいよ?
ちょい、酒に興味沸いた」
「まだ飲んじゃだめよっ!?
あ、甘酒飲める?」
「嫌いちゃうよ」
「じゃあ、今度、おじいちゃんところの飲んでみて。
おいしいから」
「楽しみにしとくわ」
3月のひな祭りに合わせて毎年送ってくれるんだ、と言う真珠を連れて、私室に向かった。
