She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第11章 煽り、煽られ、歩調合わせて
煽られたるよ
そう言った侑士の声が響く耳を塞ぐ。
その腕を掴まれ、ハッと顔を上げると、不安げな侑士がそこにいた。
ゆう、と耳を塞いでいた手を降ろす。
「ごめんな」
そう言って、デスクに手にしていたトレイを置いた。
「送るわ」
そう言って、クローゼットからとったパーカーを羽織る。
「ゆう、」
「おりたないやろ、一緒に」
怖がらせるだけや、とスクールバッグから財布と鍵を出した手を掴む。
「やだ」
帰りたくない、と腕に縋る。
「抱いて、いいから」
「なっ」
「いいから!
こ、怖がったり、しないからっ」
少し間が空いて、深い、溜息が聞こえた。
(めんどくさい、よね...)
腕に縋った手を解くと、よろ、と侑士から離れる。
「ごめんなさい、やっぱり、帰る。
送らなくて、いいっ」
じわ、と眦に滲む涙にバッグを掴む。
「さよならっ」
あんな拒絶の仕方をしてしまった。
傷つけてしまった、と唇を噛んで伸ばした腕は、部屋のノブを掴まなかった。
「無理、しなや」
ドクドクと鳴っているのが、自分の心音なのか、背後からの侑士の心音なのか分からない。
「『こわい』て、言うてええよ」
噛みしめる唇が、震える。
「いやなこと、怖いこと。悲しいこと、辛いこと
全部、素直に言うてや」
ポタ、と侑士のワイシャツの袖に水玉ができた。
「けどな、」
ギュ、と抱きしめられて、息が苦しくなる。
「『さよなら』、言わんといてっ」
それだけは嫌や、と言った声が震えている。
「別れた、ないっ好きや」
ふえ、と腕を掴む。
「待つ。
真珠が俺でええって思ってくれるまで。
ずっと、いつまでも」
だから、と髪に口元を埋める侑士。
「まだ少し、真珠の彼氏でおらしてくれ」
頼む、と包まれる体温に、ふわり、と心が緩む。
「少しで、いいの?」
「ずっとがええです」
即答と突然の敬語に、笑い声が漏れる。
「暴走せんよう、気ぃつけるから」
「早めに覚悟できるよう努力します」
真珠に返しに瞬いた侑士は、ほんまに、と柔らかく笑った。
「かなわんのぉ」
「お互いさまです」
涙目のまま、笑って見上げる腕の中の真珠に、そうやね、と優しいキスを落とした。
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