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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第11章 煽り、煽られ、歩調合わせて


閉めた扉から離れ、早足に階段を駆け下りてキッチンに入ると、カウンターに背を預けてズルズルと座り込む。

「っどアホがぁっ」

両手の空のペットポトルが拉げた。
その言葉は、当然、自分に向けた言葉なわけで。

「怯えさせて、どないすんねんっ」

今ほど自分を殴りたい時はない、と前髪を掴む。

(アカン、やん)

目を潤ませ、頬を赤らめて見上げる真珠に、揺れた気持ちがあった。

「なしてっ」
苦しい、と真珠が掴んだシャツを掴む。

「なしてっ年上なんっ!」

もしも、彼女が同級生でも、後輩でもなくて。
姉の友人でもなく、出逢い方が違っていたら...

(それでも、好きになっとる...)

現行法制度上、成人とみなされる真珠。
対して自分は、まだ、親という保護者の元、法に縛られる未成年。
もし、今、欲のまま彼女を抱いたとして、自分に何ができるのか、と唇を噛む。

それだけがすべてじゃないとわかっている。

けれど、確実に、彼女への想いを自覚する毎に、にわかに影をちらつかせるものがある事に気付いていた。

そりゃあ思春期だし、とどこか冷静な自分を前へ、前へと押し出して誤魔化していた。

そう、誤魔化していた。

真珠に、欲情している自分を。

「くそったれがっ」
ギリ、と噛んだ奥歯が擦り合う。

はぁあ、と深い溜息をつき、組んだ手に額をあてて俯く。


ゆっくりと呼吸を整え、テニスコートを思い描く。

ポーン、ポーン、とサーブ前にボールの打点確認をする左手と、グリップの具合を確かめる右手の動作。

トスしたボールの位置を測る左手。

ヒュ、と耳元でラケットが空を切る音を聞いて目を開けた。

「よし」

体の熱が引いたのを確認して、湯を沸かす。

ティーポッドにヌワラエリヤの茶葉を入れ、冷蔵庫を開けた。

グレープフルーツとマスカット、オレンジを取り出し、ペティナイフで切って、ボウルでグラニュー糖をまぶす。

少し冷ました湯で茶葉を蒸らし、濃いめに出した紅茶を果物に合わせる。

ロングクラスに氷を入れ、ゆっくりと果物と紅茶を注ぎ入れる。
氷に反射してキラキラと光るグラスが宝石のようだった。

「姫さんに届けたらんと」

大事な姫さんに、とキッチンを片付け、2つのグラスを手に、部屋へ戻った。

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