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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第11章 煽り、煽られ、歩調合わせて



 煽りたいんやったら煽られたるよ

「ゆ、ゆう?」

ス、と細められ、見下ろす目に、あ、と己の身を抱く。
次の途端、ジョーダンや、と笑った顔に安堵する。

「思春期の男の部屋におるん、自覚しぃや
 お嬢ちゃん」

うりゃあ、とじゃれるように額をぐりぐり押しつけると、立ち上がってテーブルの上の空のペットボトルを片手で2本持つ侑士。

「あったかいんと冷たいん、どっちがええ?」
喉乾くやろ?と自室のドアを開ける。
「つ、冷たい方を、ください」
「ん、わこうた」
待っとき、と微笑んで立ち上がった侑士。

背後で閉まった扉に、フッ、と体の力が抜ける。

「ゆう、」
まだ、少し震えている手を握る。

幾度か経験したはずなのに、慣れることがない。
いつだって緊張して、怯えている。
侑士は、いつもそれを責めたりせず、優しく、可愛いとまで言ってくれる。

(それに甘えてていいの...?)

煽られてやっていい、と言った侑士を、怖いと思った自分がいた。

侑士に、そういう経験があるのかは知らない。
まだ、そこまで話せるほどには踏み込めてない。

(どう、なんだろう...)

たかだか数ヶ月前の自分が、男の子と手も繋いだことがなかった事が不思議でならない。


時に流され、男と女、堕ちていくのも幸せだ、と歌う歌謡曲に膝を抱える。


(好き、と、愛してる、は、何が違うの...?)

確かな男を見せた侑士に、どうしていいかわからなかった。
自分の中に芽生えた、女の感情にも。

「難しいよぉ」

あのまま雰囲気に乗ればよかった?

けど、この恐怖を無視できるほど経験値もない。

それを乗り越えるからこその「好き」なのだろうか。

ならば、越えきれない自分は、侑士を愛していないのだろうか。

「好き、だよ」

そんなはず無い。
そうならば、どうしていつも自分の中に侑士は居るんだろうか。

書店で本を選ぶ時、彼が好きな作家から見るようになった。

大好きだった映画も、ノンジャンルに観ていたのが、純愛ものばかりになった。

自分のお気に入りばかり聴いていた昭和歌謡のラインナップが増えた。

到底、無縁だと思っていたテニスの知識を得た。

全部、侑士が自分の中に与えてくれたもの。

「あいしてるの、かな」

自信がない、と彼のものに囲まれた部屋で、一人、蹲った。

 ✜
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