She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第11章 煽り、煽られ、歩調合わせて
「あとはこっちで話すわ」
「けど、」
「ええて。仕事、遅れるんちゃう?」
ん、と顎先で職場の刺繍が入った作業着を示され、あ、と気付く。
「君こそ、学校」
「一日、二日休んだくらいで、どうもならんわ」
パッ、と顔を上げた真珠に、ええから、と微笑み掛ける声は柔らかい。
「おられたところで、邪魔や」
反して棘のある声に、それじゃ、と潔く引き下がる。
少し先で振り返ると、慌てている様子の真珠に、笑顔で頷いている。
勘ちゃん、学校はいいのですか?
ゆきのこそ
私は、行けないから...
じゃあ、俺も行かない
ゆきのが行けるところにだけ行く
勘ちゃんは、もっと明るいところに行くべきです!
ゆきのの笑顔は明るいから、ここにいる
ごめんなさい...
跳ね跳んだ日傘の向こうで、涙を流して笑う顔。
色とりどりの花の中で、太陽のように笑った顔は、もう写真と記憶の中にしか見られない。
慌てん坊で、緊張しい。
たまに敬語で話す声、鈴の音のような笑い声。
(ゆきのも、泣き虫だったなぁ)
あの頃の自分と、最愛の人を二人に重ね、目を背ける。
(似てる、なんて)
真珠ちゃんに失礼だ、と再度、2人を見る。
彼女はいつも、丈の長いワンピースを着ていた。
病による白すぎる肌と細すぎる手足を隠すために。
学生服の侑士とワンピースを着ている真珠。
すぅ、っと薄れていくように見えた真珠に驚きで目を擦る。
そこには、きちんとした輪郭を持った真珠が、侑士と手を繋いで歩き出す後ろ姿。
よく学校をサボって彼女に会いに行っていた。
同じ用に、制服で、ラケットバッグを背負って。
「あんなに、頭良くはなかったなぁ」
侑士の制服は、このあたりの地区では「お受験と言えば」の名門校・氷帝学園。
高等部の純白のブレザーとブルーグリーンのボトムが憧れ、と言う小中学生も多いと聞く。
もう戻ることのない青春の真っ只中にいる二人を眺め、少し痛む胸のまま、職場へと向かった。