She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第10章 First Kiss
✜
-...それで、返事できへんかってん-
遅なってごめんやで、と言う電話越しの声に、ううん、と首を振る。
駅まで送ってくれた侑士が無事、帰り着いたか聞いたメッセージは、帰宅後、夕食を済ませても既読されず、まさか何かあったのか、と入浴後に電話を掛けるか悩んでいたら、あちらから着信があった。
「私、恵里奈にはもう話してたつもりになってて...」
-俺もや-
カラッ、と笑う声に、よかった、と安堵して笑う。
-詰められた時、大阪のばあちゃん、来たんか思うたわ-
「そんなに似てた?」
-乗り移っとるんかってくらいに-
あははっ、と笑う。
-オカンのあの様子やと、すぐオトンに言うやろなぁ-
「お父さん、ドイツだっけ?」
-せや。ミュンヘンにおるよ-
聞き覚えはあるが、どのあたりかさっぱり。
「ドイツってヨーロッパ?」
-オーストリアとの国境あたりや-
オーストリア、と小学生の頃から自室の壁に貼られている世界地図をなぞる。
「あった、ミュンヘン」
その右下あたりの地名に覚えがある。
「美味しそうな街がある...」
-はあ?-
どいうこっちゃ?と言った侑士が、ああ、と言って笑った。
-ローゼンハイムか?-
「そうそう。
ラングドシャ、おいしいよね」
うまいけど、と低い笑い声。
-ドイツにな、ホーエンツォレルン城言う城があるんや-
「ホーエ、んん?」
-ホーエンツォレルン城-
「ホーエン、ちゅれ...言えないっ」
無理!と言うとケラケラ笑う声。
-そこで、野外映画館やっとったりするんよ-
「野外映画館?」
-夜の公園とか広場に特設のスクリーン立てて、映画、投影すんねん-
「おもしろそう」
-...後で調べてみ。綺麗な城やで-
わかった、と返し、布団に寝転ぶ。
「侑士くん、明日、バス、いつも通り?」
-ん?せやで-
わかった、と目覚まし時計を確認する。
-ゆう、て、呼んでくれへんの?-
「え?」
-...呼んでや-
「あ、えっと...ゆ、ゆう?」
-なんや?-
「呼んでって言ったの、ゆうだよ?」
-ははっ。せやね-
なんだそれぇ、とクスクス笑う。
ふあ、と真珠の口から漏れた欠伸。
-姫さん、眠いんちゃう?
風邪引くさかい、布団に入りや-
うん、と目を擦る。
「おや、すみ、ゆぅ」
-ん、おやすみ。
ええ夢、見ぃや-
返事は、寝息だった。
