She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第10章 First Kiss
✜
トン、と切ったトマトが、瑞々しく赤い。
片割れからトロリ、と溢れた果汁。
その様が真珠の唇を思い出させ、う、と手が止まる。
(アカン、ほんまにただの変態やん...)
ザクザクとその光景を打ち消すようにトマトを切り刻む。
「ゆうちゃん?
トマト、そんなに刻まなくていいのよ?」
サラダ用だから、と言う母に、ええの、と細かく刻む。
「ムニエルのソースにする」
「あ、いいわね。トマトソースでさっぱり」
フライパンの白身魚を返す母。
「なにか、お悩みごと?」
切り刻んだトマトをボウルに移し、調味料を取り出す。
「なして?」
「怖い顔でトマト切ってたから」
親の恨みってくらいに、と親に言われ、はは、と笑う。
「なんもないよ」
「そう、ならいいけど」
できた、とソースを手早く作った侑士。
「ゆうちゃんは女の子にモテるでしょう?」
「な、なんやん?急に」
焼けたムニエルが盛り付けされた皿に、トマトがないサラダを付け添える。
「お料理できるし、テニス上手だし、優しい子だし」
「なんや、なんの拷問なんや?」
居心地悪さに、やめてや、と苦笑いをする。
「お手紙たくさんもらってくるし」
少し前の姉との会話を思い出し、あ!と声を上げる。
「大丈夫よぉ。中身は見てません」
「いや、あんな」
「でも、同じ女の子としては未開封のまま捨てられちゃうのはちょっと心苦しかったかな?」
「ハイ、スンマセン」
返す言葉もございません、と平謝り。
「彼女ちゃんはいないの?」
「お、るよ」
「あら、知らなかった。氷帝の子?」
えっと、と言い淀んでいると、ただいまー!という姉の声。
「ゆうちゃんっ!」
リビングに来て早々、呼び立てられる。
「おいでなさい」
トストス、とソファを叩く姉に、なんやねんな、とキッチンカウンター越しに聞く。
「ええからはよ来んさい」
ばあちゃんと話し方そっくり、と口にしたらキレられそうなことを思いながら、なんや、とご指定のソファに座ると、ガッ!と両肩を掴まれて、ビクッと仰け反る。
「私、聞いとらんよっ」
「な、なにが...?」
「ゆうちゃん、いつからマコと付き合ってたんっ!?」
「...あ、そういえば言うてへんかったね」
「待って待って。
ゆうちゃん、真珠ちゃんと付き合ってたの?」
ママも入れてー、と頭が上がらない二人に挟まれてしまった。
