She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第2章 それが始まり
✜
差し出されたタオル。
「それ、もう何も吸わへんやろ」
べしょべしょのハンカチを指差して言う侑士。
すいません、とマコトはスポーツタオルを受け取った。
一緒に映画を見た侑士は、グシャグシャに泣きこぼして、エンドロールが終わっても立ち上がれないマコトの手を引いて、ロビーのソファまで連れ出した。
「自分、めっちゃ泣くやん」
「言ったじゃないですか。
騒がしいかも、って」
「騒がしかった訳とちゃうけど」
鑑賞を邪魔するようなことはなかった。
ただ、上映後に彼女を見た時は涙の量に一瞬ギョッとはしたけれど。
「すいません、本当に」
「気にしてへんよ」
「ごめんなさい、引き留めて」
休んで帰ります、と差し出されたタオルだったが、あ、と彼女の手元に戻った。
「すみません。洗って返します」
恵里奈に渡しておきます、と言われたが、手を差し出す。
「ええよ。汗拭き用やし...」
言いかけてハッとする。
「大丈夫!洗うたやつやから!
今日は使ってへんから汚れてへん!」
見上げて瞬くマコト。
思っていたよりも大きな声が出てしまい、しまった、と口を覆う。
「っふふ」
肩を震わせて、タオルに顔を埋めるマコト。
しばらくして顔を上げると、さっきとは違う涙が浮かんだ目元を拭う。
「化粧ボロボロにして泣いてる女が、そんな事、気にすると思います?」
マコトは泣き顔で笑った。
「マコっさん、おもろい人やなぁ」
「ええ?
侑士君が言う?」
なんがおもろかったん?と聞きかけて、制服のポケットに入れていた携帯が震え、すんません、と取り出した。
-恵里奈-という表示の着信に、電話を耳に当てる。
「なんやん?」
-どこいるー?-
映画館、と答え、傍らのマコトを見下ろす。
「マコっさんと会うてん」
私?と名前を出されたマコトが見上げてくる。
-30分で行くから、そこにいて-
「は?」
-マコのこと、引き止めといてね-
それじゃ、と切れる通話。
「ちょっ、待てやっ!なぁ、姉ちゃんっ!?」
なんやってん!?と切られた電話に聞いても返事はない。
「どうしました?」
「なんや、来るらしい、デス。姉ちゃん」
「恵里奈が?」
「なんや、マコっさん事、引き止めとけって」
なんで?と二人は顔を見合わせた。