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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第8章 一人目の男


「堪忍ね」

舞台の開場を待つ列で、侑士は繋いだ真珠の手を握り返す。

「こちらこそ。
 本当、私、侑士くんの前で泣いてばかり」

恥ずかしい、と腫れずに済んでいる目元で笑う。

「ガクトには、帰るよう言っとくさかい」
「いいの?向日くん、何かお話があったんじゃ...」

終わったら連絡して!とゲームセンターに駆け込んで行った向日。

「ええんや。
 ああ言っとったが、岳人は2時間も3時間も待てへんよ」

観劇が終わった頃には、暇を持て余して誰かと遊びに行っている、と侑士は言う。

「わざわざここまで来てくれたのに...」
「いつものことや。
 家族と喧嘩すると家出するんが、岳人の日課なんよ」
「...変わった日課ね」
進んだ列に合わせて歩く。

「大概、俺かジローか宍戸が巻き込まれんねん」
「ジローさんと、宍戸さん...」
向日くんは、岳人、くん。と自身の身の回りの人間を覚えようとしている真珠が可愛らしくて頭を撫でる。

「ジローも宍戸も岳人も、同い年やねん」
3人の名前を確かめるように繰り返す真珠。

「俺等の代の部長が跡部 景吾、言う男。
 俺と岳人含めた5人が去年までの中等部の3年レギュラー。
 今の中等部の部長は、日吉、言う男や」

ええっとぉ、と空を見て瞬きを早めている真珠を、覚えんでええよ、と辿り着いた席に誘導する。

「まぁ、どっか出会う機会があれば、紹介したるさかい」
うん、と頷いた真珠。

「部長さんは、跡部財閥と同じ名前ね」
その名を聞いてすぐに財閥に結びつくのは、さすが就活生、と感じる。

「そうやで。
 そこのお坊ちゃんやねん」
やっぱり、氷帝学園はエリートが多いのね、という真珠。

「いや、跡部が特殊なだけや」
そうなのかな?と言う真珠。

チャイムベルのあと、上演、観劇に関するアナウンスが流れ始める。

開演ブザーの後、暗くなる客席。

肘置きに置いた手に、そっと柔らかな熱を感じた。
熱の源である真珠の手を取ると、緞帳がゆっくりと上がっていく。

ステージを照らす照明の僅かな光に映し出される真珠の横顔をチラリ、と見て、彼女が向けるステージへ視線を向けた。

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