She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第8章 一人目の男
✜
-もうおんで-
そのメッセージに早足になる。
携帯を手に柱付近に立つ背の高い影に気付いて、待った?と声を掛けようとした時、大層な荷物を持った女の子が、侑士に親しそうに話しかけた。
話が終わるまで待ったほうがいいかな、と彼から見て3時の方角に立つ。
自分とそう変わらなさそうな身長の後ろ姿。
艶のある赤みの髪に、いいなぁ、と肩に掛けたバッグのハンドルを両手で握る。
仕方ない、と言ったように柱を囲うように置かれたベンチに掛けた侑士のヒョイ、と慣れた様子で座った。
お話、終わったかな?と歩き出そうとすると、侑士の隣にピタリと座った姿に脚が止まる。
-お客様に、迷子のお知らせをいたします-
アナウンスの音に、2人の声がかき消される。
(そうだよね。
高校生だもん、同じ年の子の方が、いいよね)
きっと、ちょっとした好奇心だったんだろう。
(男性は、年上の女の人に憧れる時期があるって言うし)
聞きかじりの恋愛情報は多くないけれど、同級生との話は、もっぱら、誰に彼氏ができた、どこの学校だ、いやその彼とは別れて新しい彼がいるらしい、と恋の話ばかり。
いつか自分も、最近倦怠期だ、と話す友人のように、彼ができるのだろうかと憧れを抱いていた。
その時から、頭に浮かんでいたのは、侑士の顔で...
パタ、
足元に落ちた雫を、雨、と眺めたが違った。
瞬きをするたびにポタ、ポタと増えていく水玉。
透明な真珠て、あるんやね
いつか、侑士が言った言葉が蘇り、んっ、と込み上げる嗚咽を無理やり飲み下す。
(止まって、)
滲み出た涙を、ギュッ、と目を瞑って堪えようとする。
(止まってよっ!)
溢れて頬を伝う。
「泣いてんの?」
「え?」
大丈夫?と向かいにしゃがみ込んでいるのは、侑士の隣に座っていた
「お、んなの、こ?」
「エ?俺、男だよ?」
その声の質に、ですね、と涙声がまろびでた。
「どないしてん?ガクト」
何やあったんか?と顔を出した侑士に、あ、と声が漏れる。
驚いた顔をした侑士は、どないしたんや、と瞬時に真珠の向かいに跪いた。
「どっか痛いんか?」
覗き込む侑士から顔を背ける。
「怖いこと、あったか?」
話してみ、と濡れた手を包みこんでくれる大きな掌。
嗚咽しか出ず、ただ、首を振ることしかできなかった。