She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第8章 一人目の男
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舞台の約束の日。
(なんやかんや忙しゅうで、劇場行くの久しぶりやな)
真珠と約束した場所で、耳元のイヤホンから流れてくる歌謡曲は、待ち合わせや出会いを歌う曲を無意識に選んでいた。
(渋谷ちゃうけどな)
5時でもないし、と男女のデュエットに突っ込む。
ああ、でもこんなふうに真珠と店を見て回るのは楽しそうだ、と無意識に爪先がリズムを取る。
(これ、真珠も好き言うてたな)
酒蔵の孫娘が好きと言うには、あまりにもぴったりすぎるハイトーンな男声の歌。
彼女との思い出の数だけ酒を飲むとするなら、これから先、どれだけの酒を飲まなければならなくなるだろうか、なんて考える。
メッセージの到着を知らせる音に、手にしていた携帯の画面を見る。
-もう、ついてる?-
おんで、と返信し、真珠もついたのかとイヤホンを外して顔を上げる。
「あー、侑士いた!」
「んげ」
変な声出てもた、と顔を顰める。
「『げ』ってなんだよっ!すっげー失礼だしっ」
「岳人、騒ぎなや」
ご近所迷惑や、と、チラ、と見た向日の荷物に、お前、と顔を顰める。
「またかいな」
「出掛けたって侑士の姉ちゃんに聞いたから、テニスコートかなって思ったのにいねぇんだもん。
本屋とか、まじで探し回ったし!」
「...男のストーカーはもっと嫌やわ」
「ストーカーじゃねぇしっ!」
「今日は堪忍してや。
予定、あんねん」
「ここにいたってことは舞台だろ?
終わるまでゲーセンでも行こうかな」
「いや、まあ、そうなんやけど...
相手、したれへんのや」
「そんな長いやつなのか?」
そうやない、と首を振る。
「一人ちゃうねん」
「誰かくんの?」
「なんや、その、察してや」
「なにを?」
「...岳人に期待した俺がアホやったわ」
自ら言うのはどこか気恥ずかしく、咳払い。
「えーと...その、デートなんや」
「...はぁ?」
なんやねんその反応、とまん丸目の向日を見下ろす。
「誰とっ!?」
「誰と、て、そら彼女とや」
「聞いてねぇよっ!?」
付き合ってるやついたのか!?と聞かれ、言ってなかったか?と聞き返す。
「なんにも聞いてねぇ!」
「そういう訳やから、ほんまに相手でけへん」
視線を外した向日に、聞いとる?と聞き返すと、ちょい待ち、と言われ、聞けや、と背後の柱の裏に回る彼を振り返った。
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