She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第7章 重なる影
乗り換えのバス停まででいい、と言う真珠に、ええわけ無いやろ、と手を引いてバスを降りる。
5分くらい待つの、という真珠と、他に待つ人がいない乗車場に並ぶ。
そう混み合うこと無く発車したバスからは、バス停ごとに乗客が減っていく。
二人が降りたのは、『葛橋前』。
「この辺、歩くことないなぁ」
「何もないところだからね」
少しずつ、街の灯りが遠ざかり、バス通りからは隔絶されたような街並み。
「結構歩く?」
「言ったじゃん、遠いって」
「そうやない。
いつも一人で歩いとるん?」
街灯と民家はあれど、明るい通りとは言えない道に、真珠の手を引き寄せる。
「あれ?真珠ちゃん?」
信号のない横断歩道を渡りきった時。
声の方に向いた侑士と真珠。
「かんちゃん、こんばんは」
こんばんは、と買い物袋を手にした作業着の男は、ちらと侑士を見て、にっこり笑った。
「どうも」
こんばんは、と会釈した侑士に真珠が言った。
「お父さんの同僚さんの坂野さん」
「坂野です。高校生?」
はい、と答えた制服の侑士を見つめる。
「かんちゃん、あの、忍足 侑士、くん。
その、お付き合い、して、もらってる、の」
えへへ、と照れて笑う真珠。
「そっか、彼氏か」
うん、と答えた真珠。
「年下かぁ」
坂野の目線に侑士は、少し、目を細めた。
「龍壱さんと由里子さんは、知ってるの?」
「あー、言ってない」
「ありゃ、娘さんの彼氏を家族より先知っちゃうの、まずくない?」
どうして?と、聞く真珠。
「かんちゃん、家族みたいなものだし」
「そうだね」
少し真珠を見つめると、そうだった、と坂野は踵を返した。
「杜氏に頼まれてたお使い、忘れてた」
またね、と手を振る坂野に、またね、と真珠も振り返す。
「彼氏くんも、ね」
遠くなる坂野の背中をじっと見る侑士。
「坂野 勘助さん。
お父さんの後輩で、一番若い蔵人さん」
住み込みで働いてて、たまにうちにご飯食べに来るよ、と言う真珠の手を強く握る。
彼が言った、「龍壱さんと由里子さん」が、真珠の両親か、とゆっくり吸った息を吐く。
「真珠の家に、住んどるんか?」
「ううん、蔵に住んでるの。
もう使ってない蔵をひとつ、改造して」
坂野、と胸の中で名前を繰り返し、行こ、と言う真珠に手を引かれ歩き出した。
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