She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第6章 姉とカノジョ。
家まで送る、と言った侑士に、遠回りになるよ?と真珠は不安そうに見上げた。
「そないな顔しなや」
「だって、まだ高校生なのに」
「まだ補導される時間ちゃうよ」
「でも、うち、遠いし」
「なおさら一人で帰らせられへん」
あう、と俯いた真珠の手を引く。
「せや、自分、酒蔵の娘やったな」
「恵里奈に聞いた?
おじいちゃんたちが大阪でね。
お父さんがこっちの酒蔵で勤め人の蔵人してるの」
「そうやったんや」
酒蔵なぁ、とまだ縁もゆかりも無い場所に想像がつかない。
「大阪に従兄弟おんねん」
「あ、恵里奈も言ってた。
『弟には同じ年のいとこがいるけど、自分にはいないし男の子ばっかり』って」
「言われて見ればそうやな」
謙也のとこは男兄弟やし、と今更気づく。
「いつか、行ってみたいな」
酒蔵ってどないなんやろ、と言う侑士を見上げる真珠。
「ザ・蔵!って感じ」
「なんて名前?」
「『調月酒造』。そのまんまでしょ?」
でも歴史はあるんだよ、と言う。
「15世紀前半...戦国時代頃から記録があって、真田家とか織田家にお酒を卸してたこともあるみたい」
「めっちゃすごいやん」
「酒元ってそのくらいの創業の所、たくさんあるよ。
一番古い現存のところは平安時代創業だし」
そうなんや、と真珠の明るい声に安心する。
本当にいいの?という真珠の手を強く握る。
「歩くか?それか、バスか電車か」
「歩くには遠いねぇ。
バスにしよ。ここからだと、電車は乗り換えないと...」
バスは1本で帰れる、とバス停まで歩く。
「きょうだい、おらんの?」
「うん、一人娘です」
「跡継ぎとか無いん?」
「どうなんだろ?
叔父さんのところには男の子いるし、継ぎなさい、とか言われたこと無いなぁ」
「酒造りなぁ」
ようイメージわかんのぉ、と唸る。
「あ、バス、あれか?」
「そうみたい」
行くで、と手を引く侑士の後ろ横顔を見上げる。
バスに乗り込み、二人掛けの席に並んでかける。
走り出したバス。
コト、と真珠は侑士の肩に頭を預けた。
なんや?と言う侑士の肩に側頭部を擦り付ける。
「甘えたさんやのぉ」
「やだ?」
「嫌、やな」
離れかけた頭を抱き寄せる。
「離れるん、嫌や」
目を閉じて笑った真珠の髪を撫で、車窓に流れる商業地の明かりをレンズを通さない瞳で眺めた。
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