She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第47章 元カノ〜邂逅〜
ただいま、と自宅に帰ると、サオリ〜!と呼ぶ母の声。
ぱっと見は別棟である隣の喫茶店は両親が営んでいて、裏のキッチンと自宅側の勝手口で行き来できる。
「ちょっとホール、手伝ってくれる?」
「はーい」
動きやすい服に着替えて、店のエプロンをつけると、髪をまとめる。
店の方へ行くと、7番卓!とキッチンで調理を受け持つ父からトレーを受け取った。
「お待たせしました。
ティーラテです」
「ありがとうございます」
綺麗な声の人だな、と顔を向けると、若い女性。
カップを置いたテーブルには、小さなペンケースとルーズリーフ。
見ちゃダメだけど、とチラッ、と見ると、タイトル「夫よ、死んでくれないか」というなんとも物騒なメモ。
ごゆっくりどうぞ、と言うと、微笑んで会釈してくれた。
悩ましげに本を捲ると、ふう、と一息ついて本を置いた。
(あれ?)
彼女が座るテーブルに置かれた本が、一瞬、キラッと光ったので目が留まった。
細い、何か棒のようなものが挟まっている。
先に小さな色のついた玉のようなものがついているそれに、見覚えがある気がして見つめる。
カランッ、と出入り口のベルが鳴り、いらっしゃいませ!と振り向いた。
「っ侑士っ」
咄嗟に名前が出たが、そう大きな声ではなかったため、親からは咎められなかった。
一瞬合った目でサッ、と店内を見回すと、こちらに向かってくる。
速くなる鼓動に、手にしていたトレーを抱えるようにギュッと握る。
「すんません、そこの席と待ち合わせで。
えっと...あ、紅茶、ストレート、カップで」
「ぁ、はっはいっ」
それだけ言って隣を過ぎた彼に、(気づいてないのっ!?)と振り向く。
「堪忍な、遅なって」
「ううん。お疲れ様」
7番卓に1人座る、ティーラテの女性に声を掛けた彼は向かいに座る。
「えらい物騒なもん、読んどるね」
卓上の本を手に取り、苦笑いの彼。
「先々、夫んなる立場から言うたら『殺人予告』みたいで怖いんやけど」
「ええ?あ、そうだ、読み終わったよ」
「話の代わりぶりにリアリティあるんやけど」
怖い、と己の肩を抱く忍足に、ないない、と彼女は笑いながら、また違う本を出した。
「ご心配なく、旦那様」
ふふ、とティーラテを飲む彼女。
「7番、ストレートカップ」
カウンターに父が置いた紅茶を、ゆっくりとトレーに載せた。
