She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第47章 元カノ〜邂逅〜
氷帝学園高等部 教室棟。
1年理G組の教室に充満する甘ったるい香りは、他のクラスまでも届いていた。
後方の席で、侑士は窓の景色を睨んでいた。
ふわ、と濃厚な甘い香りに顔を上げると、目の前には淡い青の綿。
「何たそがれてんだ?」
まだ朝だぜ、とそれを差し出す向日は、濃い赤い綿あめにかぶりついた。
「高等部の学祭ってさぁ、中等部より金、かけるよなぁ」
まあ、と青い綿あめがついた割りばしを受け取り、準備が整っていく教室を眺める。
「氷帝(ウチ)は、何に関しても『金かけてなんぼ』な所あるからなぁ」
懐かし、と指でちぎった綿を口に含む。
「綿菓子て、こないに甘かったか?」
甘さが消えない口内に、カバンから自販機で買った紅茶のボトルを取り出した侑士。
「っ合わへん」
うえ、と顔を顰めると、ストレートの紅茶をがぶ飲みした。
「侑士、最近、ずっとその紅茶飲んでるよな」
そうか?と歪な形になった青い綿あめをほんの少しだけちぎって食べる。
「マコト、コーヒー飲まれへんことないけど、ブラック飲まへんし、飲みすぎると胸焼けしてまうから紅茶の方がよう飲むねん」
せやから、と最近買うようになったストレートティのラベルを眺める。
「ゆーしってさぁ」
赤い綿あめを食べ終えた向日が、侑士の座る座席の机にひょいと座り、ニヤ、と笑う。
「以外と『染まる』タイプなんだな」
染まる?と首を傾げると、ほら、と笑われた。
「前ならさ、今みたいに仕草しなかっただろ?
あと侑士は立って話す時、こうやって首んところに手、当てる癖があるんだけどさ」
こう、と右の掌を首筋に当てる向日。
「え?しとる?」
してる、してる、と続ける。
「この前、駅前のコンビニでマコトちゃんもこうやって悩んでたぜ。
飲み物ん所で『んー』って」
「気にしてへんかった」
自分のことって気づかないもんだよなー、と向日は赤い綿あめをかぶりついてむしり取った。
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