She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第2章 それが始まり
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ある日の練習後。
あと数メートルで家、というところで見ていた携帯にメッセージ。
-プリン買ってきて-
たったそれだけ送りつけてきたのは姉。
「えぇ、もう目の前なんやけど」
次のメッセージで指定されたケーキハウスは、回れ右で数百メートル先。
また、新しくメッセージ。
-奢って-
「なんでやねん!」
奢りちゃうわ!タカリやっ!と怒りのメッセージを打ちかけてふと思う。
「誰か来とるんやか」
もしかしたら、大阪から姉の同級生でも来ているのかもしれない、と返事を打つ。
-何個?-
-2個-
-奢りはせんで-
財布を取り出し、プリンを買うには充分なお小遣いがあることを確認して、ケーキハウスへ。
たまには、と家族分を購入し、とただいま、と家に帰ると、玄関にはヒールが二つ。
「あ、お帰りなさい」
自分と姉の私室がある二階から降りてきた彼女は、以前姉が通っていた塾の友人。
今でも姉と親しくしているようで、よくこちらに遊びに来る。
(そういうことかいな)
どうも、と玄関に上がり、せや、と手にしているケーキボックスを掲げる。
「プリン、好きです?」
「好きです」
その笑顔に、姉がわざわざ店の商品を指定した理由を知った。
待って、と2階に戻りかけたのを呼び止め、箱から二つ渡す。
「姉ちゃんに『夕飯前に食うたら太るで』言うとってください」
「耳が痛いお言葉。
すみません、部活終わりで疲れてるのに」
ありがとうございます、と会釈した彼女に渡す。
「マコー?」
2階から、姉の声がする。
「恵里奈ー?弟くん、帰ってきたよ〜?」
「え?プリンはー?」
え?そっち?と笑った彼女に、店でつけてもらったプラスプーンを二つ、切り離して渡す。
「ありがとうございます、ゆうしくん」
いえ、と手渡すと、聞いていいですか?と問われる。
「ゆうしくんの『ゆう』は、優しいの『優』ですか?」
「いや、そっちやのぉて」
有る、の侑、と空に書く。
「あ、『たすける』の方」
「に、『し』は『士(もののふ)』です」
なるほど、と言った。
「『名は体を表す』、ですね」
プリン、頂きます、と上がっていく階段の数段上で、立ち止まって振り返る。
「部活、お疲れ様でした」
僅かに残るジャスミンの香りが彼女のものだと気付いた時には、すでにその背中は見えなかった。