She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第1章 新境地
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高校生になり、数週間。
テニスコートは朝練前の数十分しか使えず、基礎練習も中学の頃よりもハードになった。
1年生というのは、また振り出しに戻ったような感覚で、2,3年が帰ったあとのコートの整備を終わらせて、内部進学者がほとんどの変わらないメンバーと帰路につく。
交差点。
「じゃ、俺、こっちやから」
一人、別方向へと歩き出した。
「ただいまぁ」
関東で生活を始めて長いが、抜けない関西弁。
俯いていた目線の先には、見慣れないヒール。
春からお小遣いを増やしてもらった姉が、また新しいのを買ったのか、と顔を上げた。
「ぁ、えっと...お、おかえりなさい...?」
そこにいたのは、母でも姉でもなかった。
しばらくの沈黙。
「え?は?どちらさん?」
家を間違えたか?と見知らぬ人に困惑する。
「あ、あのっ私、恵里奈、さん?いや、恵里奈ちゃんとっ塾、一緒でっ」
(何回、名前呼ぶねん)
それでっ、とどこか挙動不審な彼女に、ああ、とようやく理解する。
「あー、弟です。姉がいつもお世話に...」
会釈すると、関西弁、と呟く。
「ずっと、大阪におったから」
「そうなんですね。
恵里奈、あんまり大阪弁でしゃべらないので」
確かに、姉は家族とだと関西訛りも出るが、余所行きでは標準語で話している。
そうだ、と頷く彼女。
「今日、恵里奈、ちゃんにお誘い頂いて、お邪魔させてもらっていました」
「あ、そういうことやったんですね」
驚かせてごめんなさい、と謝られ、いやいや!と通学鞄とラケットケースを玄関に置く。
「ゆうし君、ですか?」
ラケットバッグの刺繍を指す。
「運動部ですか?」
「うん。テニス部やねん」
「学校は、氷帝学園ですね?」
「そうです」
そうですか、と笑った。
「あっ、ごめんなさい、つかつきです」
「つかつき、さん」
「お見知り置きください」
よろしゅう、と返した侑士の声を掻き消すように2階から、マコトー?と姉の大声がする。
「恵里奈、お姉さんの部屋に戻ります」
「ごゆっくり」
自分には関係ない、とそれじゃ、と階段を登っていく後ろ姿を見た。
丈の長いワンピースで隠されていた脚が、スリットから垣間見え、その白さに目が止まった。
トン、トン、と階段を上がっていく後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
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