She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第45章 『反抗期届』
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(大丈夫。
大学の所作教室で習った)
目の前の懐石料理に、ふう、と細く息を吐く。
「気楽にしてや。
そないに構えんと」
取って食わへんよ、と向かいに座る瑛士からかけられた声に、そんなっ、と首を横に振る。
「それがプレッシャーやろ」
隣の侑士の声に、慌てる。
「そないなこと言うなら、うちでよかったやん。
こないな店に来させられたら、試されとる、思うわ」
「ゆ、侑士さん、お父様にそんなっ」
隣でプイッ、と向かいの父から顔を背ける侑士に、苦笑いする真珠。
「ふふ。かわええなぁ、へそ曲げて」
ムカッ、とした顔で睨む侑士を、赤子をあしらうように笑う瑛士。
「目、閉じたら、おんなし声が喧嘩しとってウケる」
「本当ねぇ」
二人の雰囲気を気にしていない和美と恵里奈に、元からこんな仲なんだろうか?と父子を窺い見た。
「さて、食べよか。
せっかくの食事が冷めるわ。
真珠さんも、遠慮せんと」
「あっはいっいた、ちょ、頂戴しますっ」
こういうのって小鉢から手を付けるんだっけ?と戸惑いながら箸を取る。
吸い物の椀の蓋を開けた侑士が、不機嫌そうに言った。
「カレー、食べたかった」
「そうやったんか。
そしたら、明日、カレーにしよか」
「今、食べたかったんや。
明日の俺がカレー食いたいんかは知らへんもん」
「ほな、帰り買うてかえろか?」
「懐石食うたあとに入らへんし」
珍しく反抗的な侑士の態度に、いつもこうなのだろうか?と真珠は戸惑う。
「高校生活、どうや?」
「氷帝学園が設定した教育概要に則った授業受けとる」
んふっ、と恵里奈が箸を置いて水を飲んだ。
「部活は?」
「テニスしとる」
「ちょっと、ゆうちゃん」
耐えきれなくなった恵里奈が、勘弁して、と笑う。
ええんよ、と瑛士は頷いた。
「ゆうちゃん、今『反抗期』やねんから」
「そうかもしれんけど、」
瑛士が机に出した携帯に、あ、と侑士が眉間にシワを寄せた。
「ちゃんと事前に教えとってくれるあたりが、ゆうちゃんの優しさやんなぁ」
なにー?と画面を見た恵里奈と和美。
「っ『反抗期届』っ!?」
「わざわざ署名捺印までして」
ケラケラ笑う恵里奈に、真珠が盗み見た侑士はこれでもかと眉間にしわを寄せていて、つい、笑いそうになったのを誤魔化すため、ぬるくなった煎茶に口をつけた。
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