She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第45章 『反抗期届』
ドイツ ルクセンブルク
パソコンに届いたのは、愛息からのメール。
珍しぃなぁ、と開くが本文が無い。
(?いたずらか?)
ゆうちゃんらしくない、と本文の無いメールに添付があることに気付く。
なんだろうか、とPDFを開く。
「っククッふっ」
あかん、とこらえる笑いが漏れる。
反 抗 期 届
この度、忍足 侑士は、父 忍足 瑛士に対し
反抗期を迎えたことをここに届け出ます
「なんや、これ」
ご丁寧に直筆の署名と捺印まである。
「ボケなんやか?」
A4に設定されている書面には、続きがあった。
なお、下記に署名捺印の上、提出することで
反抗期の終了をお知らせします
反 抗 期 終 了 届
この度、忍足 侑士は、父 忍足 瑛士に対して
反抗期を終了させることをここに届け出ます
あっはっはっ!と自身の笑い声が、一人暮らしの部屋に響く。
一通り笑うと、プリンタを起動させ、PDFを出力した。
感情の表現が苦手な子だった。
いつからだろうか。
「なにが欲しい?」と聞けば「なんならもらえるん?」
「どうしたいんや?」と聞けば「どうしたらええん?」
「寂しないか?」と聞けば「...わからへん」
(そうか。16歳やもんな)
過去のメールを振り返り、妻が送ってくれた、最近の家族の写真を眺める。
早いなぁ、と机の写真立てに入れられた、妻の腕に抱かれて寝ている赤ん坊だった長男の写真を手に取った。
何かを決めることが苦手だと思っていた。
今、分かった。
息子は、自身で決められる意思を持っている。
自分が、その機会を奪っていたのだ。
「ゆうちゃんが、愛した子、か」
どんな子だろうか、と、数ヶ月前の息子の写真と16年前の写真を並べて見る。
「やっぱり、お義父さんそっくりやな」
年々、義父の若い頃によく似ていく息子。
「カズちゃんは、髪質だけは俺やと言うてたなぁ」
癖っ毛猫っ毛の髪は、いつも毛先が跳ねるのだ。
「『了解しましたよ』と」
印刷した『反抗期届出書』に、署名する。
「明日、額ば買ってこんとな」
手書きの『忍足 侑士』に、字のクセまで似とるな、とひとり、紅茶を飲んだ。
✜