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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第6章 姉とカノジョ。


左手の大きな建物に向かう。

(女ん子ばっか)

女子大なので当然だが。

(門の外で待っとくべきやったかな)

でも、そうなると真珠が濡れるしな、と向けられる視線をできるだけ気にしないように歩みを進める。

テニスコートならなにも気にならないのに、と少し傘をあげると、矢印と返信に書かれていた『東棟』という立て看板。

その先の建物の掲示板にある、文化教養学科、という文字に、なんの専攻なんやろ、と庇の下で傘を畳む。
携帯を取り出すと同時にチャイムが鳴り、あまり待たずに中から学生たちが出てくる。
当然ながら女性しかおらず、なんとなく柱の陰に入る。

「ごめん。今日は休み」

好きな声に、柱から顔を出す。


片方が空いたガラスの扉。

友人と話している真珠の横顔に、少し、口角が上がる。

「じゅじゅ、次バイトいつ?」
「土曜日の8時半」
「んじゃ、その時、行くわ」

わかった、と友人に手を振った真珠と目が合い、柱の陰に入る。

(別に隠れんでもいいやろ)
ストーカーちゃうんやから、と咄嗟に隠れてしまった自分に、アホ、と悪態づく。

(ふつーに、ふつーに話しかければええんや)
よし、と振り返る。

「侑士くん、見つけました」
「っおったんか」
ぶつかりそうになった真珠は、ふふ、と笑って見上げる。
「ごめんね、わざわざ」
「気にしなや」
ほら、と傘を差し出す。

「入っていいんか、しばらく悩んでもうたわ」
「あははっ女子大だしねっ」
ごめんね、と見上げる真珠の髪に手を伸ばす。

「『じゅじゅ』、呼ばれてんねや」
あれね、と笑う真珠の髪を耳にかける。

「入学した時、教授が点呼で『調月 真珠』を『ちょうづき しんじゅ』って読んだの。
 『つかつき まこと』です、って言ったんだけど、『しんじゅ』っていうのがインパクト強かったみたいで、ゼミの人とか同期とかは、そこから崩れて今は『じゅじゅ』って呼ぶよ」
「字面は『しんじゅ』ちゃんやもんな」

空に指先で、真珠、と書く侑士。

「恵里奈も侑士くんも、読みやすいよね」
「あー、たまに『ゆうじ』言われる時もあんで」

あ、確かに、と今度は真珠が空に指で侑士の名前を書く。

「うーん、濁るか濁らないかでだいぶ雰囲気違う」

侑士くんは『ゆうし』くんだよ、と一人、納得している真珠の手を握った。

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