She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第44章 外野の暗闘
中等部男子テニス部の練習が終わる頃を見計らって、駅のホームで待つのが習慣になってきた春。
中等部が夏休みに入ると、彼は、女子生徒と部活に登下校していた。
いつも声を掛ける駅前の交差点で、並び歩く2人に気付いて、魅愛は咄嗟に隠れた。
「今はまだ明るいからええけど、暗なる前に先、帰りや」
「待ってると、困る?」
「そういうわけちゃうけど」
「大丈夫だよっ家、近いし」
「なんやあって困るん、サオリの家族だけやないんやで?」
「そう、だね...
あっじゃあ、次の校内試合、見に来ていい?
お昼には終わるんでしょ?」
「ええけど...部活終わったら、宍戸たちとストテニ行く約束してんねん」
「そっ、か...
あっ信号変わっちゃう」
「危ないて。次、待ちや」
駆け出そうとした彼女の腕を捉え、急がんでええやん、と並んで信号を待つ二人は、横断歩道を渡り終えても、手を繋ぐこともなかった。
それ以降夏休みの間、彼女は頻繁にテニスコートに現れ、いつも侑士と話していた。
女子テニス部への指導を言い訳に中等部のテニスコートに訪れていた魅愛は、その姿をいつも見ていた。
夏休み明け。
テニスコートで彼女を見かけなくなった。
向日との会話を聞いたのは、偶然だった。
「ゆーし、別れたんだって?」
「え?あー、せやね」
特に気にした様子の無い返事に、おい、と宍戸が呆れた声を出した。
「『付き合ぅとる実感がない』言われた」
「なんだそれ?」
わっかんねえ、と眉を顰める宍戸。
「デートとかしなかったのか?」
「デート...?
夏休みに映画、見に行ったで」
「おっいいじゃん!あとは?」
あとは...?と首を傾げる侑士に、え、と向日は固まった。
「そんだけ...?」
「そんだけ、って、『出掛けた』っていうのはそれだけやね」
うわ、と冷めた目の向日。
「せめて登下校くらい一緒にするとかさぁ」
「向こう、部活してへんのやもん。
待たすん、悪いやん」
「メッセージ送るとか帰って電話するとか」
「ちまちま打つんはめんどいし、話すことも無いねんもん」
「「絶望的に『彼氏』に向いてねぇのな」」
正直めんどくさいと思った、と言った侑士に、恋愛小説ばっかり読んでるくせに、と二人は呆れた。
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