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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第44章 外野の暗闘



帰宅ラッシュの電車は、すし詰めとまではいかないが混み合っている。

「勉強は、どう?」
「ぼちぼちですねぇ」
「好きな教科は?」
「なんやろ。んー、理数は好きですよ」
「ぽい、わ」
「ええ?どういう意味ですか?」
「国語も嫌いじゃないけれど、模範解答ではなく、正答がある理数の方がしっくりきてそうかな、と」
「あー、確かに」

そうかもしれへん、と頷く。

「テニスのことは詳しくないけれど、トリッキーなことするよりは、模範技術の密度が高そうなタイプよね」
「どうなんやろか?」

車内の放送に、あ、と声を上げる。

「次?」
はい、と頷いて、通学カバンとラケットバッグを担ぎ直す。

「お疲れ様」
「お疲れ様でした。お気をつけて」

ありがとう、と微笑んだ彼女を、なんとなく、発車まで見送る。
ゆっくりと動き出した電車に会釈すると、車内から手を振られ、片手を上げる。

走り去った電車に、少しだけ人の流れが落ち着いた改札までの階段を降りた。


バス停があるロータリーを抜け、自宅に向かおうとした所で、ゆうちゃん!と後ろから声を掛けられた。

今帰り〜?と手を振る高校の制服を着た姉も、帰る途中のようだった。

「なあ、『ゆうちゃん』やめてや」
「おっ、なん?思春期なん?」
「えりちゃんのそういうとこ、苦手やわぁ」

人を食ったような態度の姉に、溜息をつく。

「どう?氷帝学園は?」
「まあ、ぼちぼち。
 そや。今年の生徒会長、俺と同じ1年がやるねん」
「そうなん?」
「『跡部』言うてな。
 おんなしテニス部なんやけど、変わったやつやねん」

俺、シングルスの試合で負けてん、と笑う侑士。

「えっ!?ゆうちゃん、負けたん!?」
「おん」
「お祝いやん!初黒星!」
「黒星祝われるてどういうことなん?」

意味わからんやろ、と苦笑いする。

「挫折を経験せえへん奴は、天才でも何でもないよ
 それとも、テニス、やめたなった?」
「そんなわけないやん」
「むしろ、今、めっちゃ楽しいんやろ?」

いつの間にか、身長を越していた姉を見下ろす。

「4月、結構、不安そうな顔しとったから」
「...してへんよ」
「お姉ちゃんにはわかるんよぉ」

お姉ちゃんやから、と理由になっていない理由に、なんやそれ、と家までの道のりを、姉の速さに合わせてゆっくりと歩き出した。

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