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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第44章 外野の暗闘


徒歩通学の向日、芥川、宍戸と別れ、駅で電車を待つ。

従兄弟の謙也からメールが来ていて、四天宝寺中でも部活が始まったらしい。

四天宝寺のテニス部1年やで!と送られてきた、同級生たちとの写真。
そこに混ざる謙也の髪色に、なかなか見慣れない。

電車の到着を待つ列の最後尾で、図書室から借りた本を立ち読みしていると、ごめんなさいね、と低い位置から声を掛けられる。

「ここに行こうと思うんだけど、どの電車に乗ったらいいか分からなくて」

高齢の女性が差し出す紙を見た侑士。
案内の紙には最寄り駅は「市役所前」という文字を見つけ、えっと、と近くの柱の路線図を見る。

「今、ここやから...
 あ、あの電車に乗ったらええんちゃいますか?」

ありがとう、と会釈する彼女は、よいしょ、と曲がった腰で杖代わりのカートの向きを変えようとした。

「お姉さん!」
侑士の隣から彼女に声を掛けたのは、氷帝学園高等部の制服の女子生徒。

「市役所前で降りるんですよね?
 ここ、環状線なので、外回りの快速に乗った方が早いですよ」

彼女が指さしたのは、侑士が指した普通電車の隣のホームで、扉を開けて待っている快速電車。

「あの電車で5つ目です」
「あら、ありがとう」
「いいえ」
女性を見送った彼女が振り返った。

「かけーいんはん」
「部活お疲れ様。『ゆうちゃん』」
「どうも...て、『ゆうちゃん』呼ばんとってください」
「あら、かわいくていいじゃない」

私は好きよ、と、高等部の真っ白なブレザーにかかる髪を払った。

「それが嫌なんですわ」
「ふふ。じゃあ...『侑士』の方がいいかしら?」
「ああ、まあ『ゆうちゃん』よりは...」

呼び方なんて特にこだわりはない、とまだ来ない電車を待つ。

「これからの時期、最終下校の19時までいると、電車の時間が微妙なのよね」
「ああ、先輩もですか」
「内回り?外回り?」
「外回りです。内回りの方が近いんやけど、人多いから」
「考えることは皆同じ、ね」

転落防止扉の前の列に、なんとなく隣り合って立つ。

「さっき、ごめんさいね。水を指すようなことをして」
「なんがですか。ありがとうございました」
「東京の電車、慣れない?」
「東京は環状線に入る路線が多すぎるんですわ。
 駅名も似たようなんめっちゃあるし」

確かに、と彼女の髪が、電車の風に舞い上がった。
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