She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第43章 花に蝶
「生徒会奉仕部」と名を冠した部活が、実質、跡部 景吾のファンクラブであることは、氷帝学園関係者ならば百が承知していることだった。
跡部に限らず、その他にも、ファンクラブと言える程度の人気を誇る生徒はいた。
人気の反映として、会員数の多い順にリスト化させれば、圧倒的ナンバーワンとして跡部が君臨する下に、大差、と言える差をつけ、それでもいち高校生としては異例の会員数の上位者たちが並ぶ。
そのリストの上から目を通せば、そう目が疲れないうちに侑士の名前が確認できるだろう。
ファンクラブ、と言えるほどの組織化されたものではないが、男女ともにいくらかの学生には、自分の好きのものを誰かと共有したい、という気持ちがある者たちの集まりがあり、それらもひっくるめてファンクラブと呼ばれていた。
特に名称があるわけではなかったが、侑士にもその組織があり、花開院 魅愛はそれに属する生徒の中で、一番存在感と影響力が大きかった。
訳は、侑士が氷帝学園に入る前に遡る。
なぜ侑士が氷帝学園を受験したかはさておき、彼女が侑士を気にかけるようになったきっかけは、中等部の入学説明会の時だった。
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「あかん。完全に迷子や...」
同じような校舎が並ぶ敷地内で、ラケットバッグを担いだ小学校6年生の侑士少年は、そこにあったベンチに座り込んだ。
「あっちから来た...んかなぁ?」
もうわからへん、とだらけた姿勢になる。
「せやっ携帯でオカンに聞いたらええわ」
東京に行くと決まり、中学生になったら、と言われていた携帯を早めに買ってもらったのだ、と母の番号にかける。
「出ぇへんしっ」
なんでっ!?と携帯を凝視しても、呼び出し中のまま。
「あっ、マナーモードかっ」
さっきまで、講堂で行われていた説明会中、妨げとならないよう音を切ったままのようだ。
「終わったわ」
どないしょう、と周りを見渡してみるが、人の気配はない。
「大人しゅう、待っとけばよかったわ」
全体説明から生徒向けの案内に移行するに辺り、20分程度の休憩が設けられ、朝、母と見かけたテニスコートを見てみようと講堂を出たのが運の尽きだった。
「45分から再開、言うてたよなぁ」
あと3分、と待ち受けの時計に溜息をつく。
「前途多難やぁ」
大阪帰りたい、とセンチメンタルな気分は、ねえ、とかけられた声に姿を消した。
