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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第43章 花に蝶



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チラ、と華都葵は魅愛を見た。
待機席の選手たちの中にいる姿を睨みつけている。

華都葵が、橙君子蘭の君、と命名した芥川はのんびりと弁当を食べている。

時折、箸を持ったまま瞼が閉じてしまいそうな芥川を揺すり起こし、食事を摂るよう促している真珠。
ゆるゆると頭を振った芥川は、弁当を避けると、軽い伸びをして寝転んだ。

猫のように丸くなり、真珠の膝を枕にして、くわぁっ、と欠伸をする芥川を好きにさせたまま、残された弁当を片付ける真珠。

その隣で、彼女と話していた向日が、ビニール袋を手に階段を降りてくる侑士に気づいて、芥川を起こそうとした。

背後から真珠に声をかけた侑士は、向日が起こしきれなかった芥川に気づき、タオルでその頭をパシンっと叩いた。

それでも起きない芥川に、真珠と二、三言話して、仕方なさそうにビニール袋から取り出した飲み物をひとつ真珠に渡して、残ったビニール袋ごと、芥川の額に置いた。

しばらく静止し、がっくりと頭を垂れた侑士。

ビニール袋を彼女に託け、芥川が寝そべり、真珠が座る隣の通路の段差に、諦めたように座り込んだ。


「彼女、本当に侑士の恋人なのかしら?」
んん?と首を傾げた魅愛を、あら、と華都葵は横目に見る。
「私の情報に、齟齬があるって言いたいの?」
そうじゃないけれど、と言い淀む。
「今のところ、芥川君の保護者にしか見えないのよ」
「確かに」

あのテニス部員は、『一番親しそうなのは忍足』と言っていただけ。
彼女が持参したクーラーバッグの飲み物を飲んでいたのは、芥川と侑士。
芥川は勧められて、侑士は自主的に手を付けたように見えたが、真相は2人にはわからない。

芥川の頭を叩いたのも、恋人として膝枕を嫌がったのか、仲間として芥川に喝を入れたかったのかは、魅愛にも華都葵にも判断がつかなかった。

「あまり追い詰めると、足元、すくわれるわよ」

それは彼女になのか侑士になのか、あえて華都葵は魅愛に問いかけなかった。

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