She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第43章 花に蝶
「侑士」
午後の試合に向けて軽いウォーミングアップをしていた侑士が手を止めた。
「花開院はん」
「ミアでいいと言ったじゃない」
「先輩を呼び捨てにはできまへんわ」
「あなたのその生真面目さは悪くないけど、面白くないわ」
「そら、失礼しました」
部員たちの輪から抜けた侑士を見上げた魅愛。
「なんですのん?」
「いえ、このあと試合は?」
「シングルスとダブルス、一試合ずつ」
「見させてもらうわ」
「ええ、緊張してまうやないですか」
全くそのような様子を見せない侑士に、何を言っているの、と微笑む。
さり気なく逸らされた侑士の視線。
「ほな、試合あるんで」
「頑張って」
そっ、と肩に触れようと伸ばした手は、頑張らせてもらいます、と言う低い声で踵を返した侑士に、届かなかった。
ギャラリー席の華鶴葵の隣に席を取ると、ねえ、と声を掛ける。
「例の彼女、見かけた?」
「夕菅の君の?そう言えば、まだ見てないわね」
どんな顔だったかしら?という華鶴葵を一瞥し、会場を見渡す。
出場者の控席に目を向けると、観覧席の階段を駆け下り、控席の最後列でシューズの紐を結ぶ宍戸に声をかける姿があった。
「亮君っ『冷却スプレー』ってコレで良かったのかな?」
「ビンゴっす!すいません、パシって」
パンッと顔の前で手を合わせる宍戸。
「ジロ君は?」
あれっす、と宍戸が指差した椅子で横になっている芥川に駆け寄る。
「ジロくーん?」
「んー?あっマコトちゃん」
具合どう?と傍らに座り、手提げから出した瞬間冷却剤の封を開ける。
「ちょっと楽かなぁ?」
「熱中症なりかけ?」
パンっ!と叩いて膨らませると、温度を確認して、芥川の脇に入れ込む。
「わかんないやぁ」
「水分取った?」
飲んだよー、といつも以上に気の抜けた声の芥川。
ベンチに掛けられていたタオルを広げると、パタパタと扇いで風を送った。
「ジロー?」
選手の控え席に入った侑士は、気分どうや?と横になる芥川を見下ろす。
「ふわぁってしてんのー」
「いっつも、ふわぁっとしとるけどなぁ」
苦笑いの真珠が、ねえ、と芥川の顔を覗き込む。
「ジロ君、お昼、食べた?」
私、ジロ君がご飯食べたの見てない、と不安げにする真珠に、宍戸が芥川のバッグを掴み取った。