She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第42章 To play
「ゲームセット、ウォンバイ向日」
ジャッジを終え、エンパイアチェアから降りた侑士。
次は試合、とラケットを手に3番コートに向かっていると、同じ方向に向かう真珠を見つけて駆け寄る。
「マコト」
「ゆうっ」
審判お疲れ様、と微笑まれ、おおきに、と手を握る。
「ガクト君、すごいねぇ
あんなに動いて、目、回らないのかな?」
くるくるって回ってた、とジャッジを担当した試合を見ていた真珠の言葉に、顔を覗き込む。
「俺ん試合、ちゃんと見てな?」
「もちろんっ」
楽しみっ!と見上げる顔に、ぎゅっ、と手を握る。
「緊張してる?」
大丈夫?と不安そうな真珠に、してへんよ、と首を横に振る。
「せやけど、マコトが見てくれる思うたら、気にしてまうな」
「注意力散漫、注意です」
気ぃ付ける、と手を繋いだまま、コートに向かう。
「コートの状態、見てくる」
持っとって、と渡した、前身頃の左裏側に「忍足 侑士」と濃紺の糸の刺繍が入っているジャージを受け取った真珠。
「いってらっしゃい」
優しい声に、うん、と頷いてコート内へ入った。
✜
(やっぱり、氷帝は全体的にレベルが高いんだろうなぁ)
涼しい顔で構えるリターンの侑士。
相手側のコートの選手は、ぜぇ、と息を吐いて汗を拭った。
それなりの速度はあるサーブに軽く追いつき、的確に返す侑士。
(楽しそう)
いくつかのラリーの中、やっとのところで相手が追いついて返したボールは、侑士のストロークで返され、彼の顔の横スレスレをすり抜けていった。
思った通りの球筋だったのか、納得しているような表情の侑士に、良かった、とホッとする。
けれど、勝ち上がっていくにつれ、やはり相手も勝ち抜いてきた猛者。
(やっぱり)
まただ、と侑士を凝視する。
(操られているみたい)
テニスをしている侑士が、そこから消えてしまいそうな感覚を何度か経験した。まるで、侑士ではない誰かが、侑士の体を使っているように感じた。
(勝つための手段、なのかな)
心を閉ざした状態の侑士を、操り人形のようだ、と真珠は感じていた。
侑士ではない誰かが、侑士の体に乗り移っているようだ、と。
テニスは心理戦でもある。
動きが読めないというのは強みである一方で、脆さでもあるように感じて、ポーカーフェイスの横顔をじっと、ただ、見つめ続けた。
