She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第39章 デートの日1
髪、結うて。と少し背を屈めると、いいよ、とヘアゴムを取り出す。
「切らないの?」
「マコトが結うてくれる限りは切らんどこうかな」
「なにか、願掛け?」
「そういうわけちゃうけど」
できたよ、と軽く背を叩かれ、おおきに、と振り返って、そうや、と聞く。
「日焼け止め、持っとる?」
部活で使うやつ切らしとってん、と、あるよー、とバッグを覗く姿を見下ろす。
「スプレータイプとミルクタイプがあります」
女の子やんなぁ、と使い慣れているミルクタイプを借りる。
「ドラストあったら、寄ってええ?」
「日焼け止め、買う?
いやぁ、改めてすごいよ、ゆうは。
この炎天下でテニスするんだもん」
「今からの時期、部活はトレーニング室か屋内施設やけどな」
「試合は野外の時もあるでしょう?」
まぁなぁ、と首に日焼け止めを塗り拡げる。
「ゆう、後ろ向いて」
うん、と背中を向けると、シューッと吹きかけられた冷気に、のあっ!?の背が仰け反る。
なんやの、と振り返ると、真珠は少しいたずらそうに笑って手にしている霧吹きタイプのボトルを見せた。
「冷感スプレー。
ミントとかキシリトールとか入っててスーッとするんだって」
こういうのもあると便利かもよ、とバッグにボトルたちをしまう。
楽しそうな真珠に、繋いだ手を優しく引かれる。
「この先にね、ゆうが好きそうな雰囲気の、古物商っていうのかな?
レトロな物とか、レコードとかあるお店見つけたの。そこ、行ってみない?」
いつもならうざったく思うだけの人波に真珠が混ざると、それが彼女だけを引き立てる絵画の背景に見える。
髪を結ってもらうことも、なにかを共有することも、他の誰かであればなんとも思わない事が、特別なものに思えて愛おしい。
赤信号の交差点で並んで立ち止まる。
「向こうの商店街のアーケード抜けた先あたり」
行先の説明をしている真珠をじっと見つめる。
「ゆう?」
その視線に気づいたのか、微笑んで見上げる真珠にキスをする。
真っ赤になって口をパクパクとさせている姿に、フッ、と笑うと、信号が青になった。
「行こか?」
うん、と俯いて手を引かれながらついてくる真珠。
「びっくり、したんだけど」
「キスしたいな思ったら、もうしとった」
なにそれ、と心地よく笑う声が、よく晴れた初夏の空に舞って行った。
✜
