She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第5章 始まりの朝
いってきます、と玄関で靴を履いても、姉の姿は見なかった。
玄関から門までのアプローチを歩く。
-今、家出た-
届いたメッセージに、ラケットバッグと通園バッグの位置を整え、いつものバス停までの通学路を歩く。
-どこから乗るん?-
-警察署前っ!-
すぐやん、と自宅の最寄りバス停から2つ目のバス停の名前に呟く。
-時間通り来そう?-
バス停に着いたのは、定刻の2分前。
まだわからんなぁ、と送り、バスが来る方角を見る。
-今、来たで-
-定刻ですね-
オッケー!と羽先で丸を作るシマエナガ。
バスに乗り込むと、片手で文庫と携帯を器用に持ち、吊り革を掴む。
1つ目のバス停を過ぎると、文庫をしまう。
-『次は、警察署前、警察署前。お降りの方は...』-
車内アナウンスに、窓の外に目を向ける。
(おった。)
数人が待つバス停の3番目に、携帯を持つ真珠を見つけた。
2人が降り4人が乗る。
定期をかざして顔を上げた真珠にアイコンタクトを取ると、そう混み合っていない車内で隣に立った。
「おはよう」
「おはようさん」
少し照れたような笑顔の真珠。
吊り革を掴む逆の手から、通学用と思われる鞄を取り上げる。
「手、貸しや」
足の間に置いたラケットバッグに自分の通学用鞄を引っ掛け、真珠の鞄を肩にかけた片手を差し出す。
おずおずと差し出された手をつかみ、指を絡めて繋ぐ。
「そんで、子熊はちゃんと目ぇ、覚めとるんか?」
ひどい、と言う真珠と笑い合う。
「せや、舞台の時、どこで落ち合う?」
実は、と続ける。
「俺、財天座、行ったことないねん」
狂言座はよう行くねんけど、と近くの劇場を挙げる。
片手で携帯を操作し、真珠が場所を教えてくれた。
-次は、氷帝学園前-
繰り返すアナウンスに、あ、と車内の掲示板を見た侑士。
「あとで場所、送るね。
見たら、連絡くださいな」
それで待ち合わせ場所、決めよう、と言われ、わかった、と頷く。
ゆっくりとバス停で止まり、扉を開いたバス。
渡した鞄を受け取った真珠。
繋いだ手をギュッ、と握ると、いってらっしゃい、と両手でその手を包みこんで、握り返した後に解かれた。
「いってくるわ」
バスから降りて振り返ると、車窓の真珠が手を振る。
手を振り返すと、少し辺りを気にして
「っ!」
車窓越しに小さな投げキスをもらった。
