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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第36章 ライバル現る?



 ✜

会場に顔を出した真珠の隣に、男の姿があったのが許せなかった。

そこに立てるのは自分だけだ、と、確かな嫉妬の熱が体をめぐって、それが誰か碌に確認もせず、威嚇としてボールを打ち込んでしまった。

ボールを容易く手で受け止めた姿に、あれは、と少し冷静になれた頃にはもう遅く、(やってもうた)と試合に臨んだ。
視界の端に嫌でも捉える姿に少し苛つきが残り、試合に集中できなかった。

真珠から説明があれば少しは気が落ち着くのかもしれない、と思い、会場を探したが姿が無く、イラつきが増しただけだった。

冷静になろうと一人になったとて、目に焼きついている真珠と越知の影に苛つき、ダブルスでも、向日に「おかしい」と言われた。

ギャラリー席が気になって、試合に集中出来ない。

マッチポイントでのサーブ。
駆け寄ってきた向日に、何があったのか、と聞かれたが、自分にだってよく分からない。

冷静になれない、と舌打ちしつつ、ラケットを握り込む。

コートの周辺が静かになる。

(集中)

2回、球を床に打ち付ける。
跳ね返ったボールをキャッチした時だった。

「氷帝、ファイトー!」

(マ、コト...?)
突然聞こえた声にギャラリーを見上げると、落ちそうなほどに身を乗り出している真珠がいた。

「なにしてんねやっ」
危ない、と届きもしないのに手を伸ばしそうになる。

すう、と大きく息を吸うと

「勝つのは忍足っ!勝つのは向日ー!」

その小さな口の、細い首の、華奢な体の、どこからそんな声が出るのか、と見上げる。

「ダブルス、ファイト~!」

最後は息が続かず、掠れて弱々しくなっていく声に、無理しなや、と笑ってしまった。

「ほんま、かなわんわ」

真珠に、『忍足』と呼ばれたのは初めてだ、と気付く。

(変な感じや)

それでも、暗かった気持ちは確かに晴れている。

(ちぃとは、かっこええとこ、見せとかんとかなぁ)

「ガクト」
もう一度、ボールの打点確認をする。

「いつも通り、頼むわ」
「おうっ!いくぜゆーし!」
「任しとけぇ」

いつもよりも、少し高く上げたボール。

打ち込んだサーブは、思い描いた通りの軌道と速度。

「15-0」
「よっしゃ!先制っ」

侑士のフラットアプローチショットは、対戦相手の間を鋭く抜けた。

結果、侑士はその他に失点なしで試合は閉幕した。

 ✜
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