She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第36章 ライバル現る?
咄嗟に閉じた目をそっと開く。
え?と瞬くと、あんなにざわついていた会場内がシン、と静まり返っていた。
一体何が、と、入り口でぶつかってしまった男性を見上げると、その手には一球のテニスボール。
「ボー、ル?」
「恋人というのは、あいつか」
ボールを掴んだ手で彼が指差す先を見る。
コートの真ん中。
ラケットを手にこちらを睨みつけている侑士に気付き、ゆう!と声を上げる。
「返しておけ」
「え?あっはいっ」
ポトン、と差し出した両手に落とされたテニスボール。
会場を出て行った彼は、少し、背を屈めるようにして扉の向こうに行ってしまった。
(脚の長さだけで身長抜かれそう...)
彼が履いていたズボンで全身包まれてしまいそうだ、と呆然としていた真珠は、ピー!と言うホイッスルの音にビクッ!と驚いた。
-3番コート忍足君、コードバイオレーション。
警告とします-
ざわついた会場に、侑士は表情一つ変えず、監督やコーチ陣へ向かって一礼すると、サービスラインに戻った。
(コード、バイオレーション?)
なんだっけ、と鞄を漁り、テニスのルールブックの索引を引く。
(あった!『コードバイオレーション』。
試合外や試合の合間で行われた違反...ボールの乱用...
まさか、あのボール打ったのゆう...?)
そんな、と試合がよく見える場所まで駆け寄る。
ボールの打点確認をする相手に、リターンを構える侑士が、ちら、とこちらを見たのがわかった。
咄嗟に、声を上げようとした真珠は、既のところで口を閉ざす。
(ラリー中は声援、ダメなんだった)
紳士のスポーツと呼ばれるテニス。
応援する観客にも「ルール」があり、野球のような声での応援はテニスにおいてはルール違反になることがある。
スコアボードを見ると、マッチポイントで既に侑士が1ゲーム取っている。
このゲームを取れば勝ち、とラリーを見守る。
余裕を持っているように見える侑士は、高く上がったボールにラケットを高く構えた。
「っらぁ!」
珍しく声を上げた侑士が打ち返した球は、鋭く相手コートへと向かって、バウンドした場所に擦過痕をつけた。
「ゲームセット!」
やった!と真珠は喜んだが、侑士は審判のコールを最後まで聞かず、逃げ出すようにコートを駆け出た。
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