She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第36章 ライバル現る?
✜
氷帝学園高等部テニス部の校内選抜を見に来たのは、昨年、U-17で代表争いをした面子が出るとのことで、その成長やいかに、と言う毛利に誘われたからだった。
(さして興味はないのだが)
レギュラーだったメンバーはやはり、それなりに実力があると思うが、高校となると外部受験してきた実力者もおり、正直、あの頃よりもインパクトが弱いと感じる者もいた。
(跡部、忍足は着実に成長している。
佐原は外部生か...
向日、未だにスタミナ克服はできていないな)
高等部の監督はどう考えるか、としばらく試合を見て、会場を出る。
開いた扉の前で立ち止まっていたのは、小柄な女性。
固まっている彼女は顔を上げると、おお、と可愛らしい声を漏らした。
通せんぼをしてしまった、と避けようとすると、彼女は突然倒れてきた。
咄嗟に抱きとめた体は小さく、フワリと舞った髪からは花のような匂いがした。
びっくりした、と胸を押さえる彼女が何も履いていないのに気づく。
「棚のスリッパは、来客用だ。
自由に使っていい」
スリッパ?と首を傾げている。
出入りする生徒が脱いだ靴が溢れている三和土。
靴箱に少数残っていたスリッパを一組、取りに行く。
「使うといい」
「あ、ありがとうございますっ」
ほほ笑んで髪を耳にかけた。
(可愛らしい)
見下ろす彼女の顔をよく見たくて、足元にかがむ。
手にしていたスリッパを履かせようと掴んだ足首は細く、その脚の小ささに驚く。
案の定、スリッパは少し大きいらしく、歩きにくいか、と思いつつ、立ち上がる。
「卒業生か?」
そう年が離れていなさそうな面構え。
中等部や高等部の制服ではない私服で、いいえ、と答えた唇には少しの色が乗っており、抱え直した鞄は通学鞄ではなく、トートバッグ。
「恋人、の、試合を見に、きました」
恥ずかしそうにはにかんだ顔。
-...ください。
1番コート、結城和樹君、岩田慎太郎君
2番コート、沖律也君、向日岳人君
3番コート、忍足侑士君、檜佐田敬大君
4番コート、跡部景吾君、櫻澤秀人君 ...-
集合のアナウンスに、あ、と声を漏らし、失礼します、と丁寧に会釈して歩き出した彼女の手を掴んだ。
なにか?と穏やかな笑顔に、名前は、と言いかけた声は続かなかった。