She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第33章 過去の人
数週間後。
ホームルームが終わって、昇降口に向かう途中、校舎の階段の端で何か光った気がした。
「なんだろ?」
キーホルダーのモチーフ?とガラス玉の付いた羽根を象った金属製のそれを拾う。
落とし物らしきそれの届け先を考えていると、下を見ながら歩いてくる人影。
(侑士...)
テニス部のウエアで、廊下の個人ロッカーの脇まで覗き込んでいる姿に、なにしてんだろ?と立ち止まる。
「あ、」
顔を上げた彼とバチリ、と目が合って、つい、声が出た。
「どうしたの?」
「いや、ちょお、大事なもん、失くしてもうて」
本当に困っているような顔に、なに失くしたの?と聞く。
「栞やねんけど...」
栞が大事なもの?と首を傾げる。
「あー、その...揃いに、しとるもんで、替えきかへんねん」
じゃ、と教室へと向かう姿を見送る。
「あっ」
しおりって、と手にしていたそれを見る。
すでに姿は無く、どうしよう、と立ち竦む。
しばらく考えて昇降口に向かうと、「忍足」のネームプレートの靴箱にそっとそれを置いた。
✜
放課後。
部室で着替えるより先に、通学鞄の中の文庫を手に取る。
読むため、と言うより、それに挟んでいるものが目的だった。
「無い」
なにも挟まっていない文庫。
どこまで読んだかは覚えているが、問題はそこでは無かった。
鞄の中を掻き回して見るが、目的のものは見つからない。
「嘘やろ」
(最後に本、開いたんは...部室、来る前や。
教室の席で読んで...HR終わって、岳人とジロー回収しに行って...ちゃうっ昇降口行く前に、本、開いた、ような)
鞄を覗き込んで固まっている侑士に気付いた向日が、ゆーし?と声を掛ける。
「どうしたんだ?」
「大事なもん、無くしてん」
再度ロッカーを漁り返すと、教室か?と部室を飛び出す。
「おいっゆーし!」
「先、帰とってええからっ」
テニスシューズのまま、いつもの道のりで俯きながら教室へと向かう。
(最悪やっ)
なんでよりによってあれやねん、と排水路や植え込みを覗き込みながら校舎に向かう。
昇降口の簀子の下まで見て、教室に戻る。
廊下の隅まで目を凝らしながら歩いていると、あ、と聞こえて顔を上げた。
どうしたの?と聞く仁井村に、失くしもの、と端的に答えて、早足に、それでもしっかりと周囲を確認しながら教室へと向かった。
