She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第4章 セカンドチャンス
上映が始まった映画。
初めこそスクリーンに向いていた侑士の目線は、隣の真珠を捉えていた。
悲しげに憂いたり、ストーリーのパズルが合うたびにハッとしたりする横顔は、見ていて飽きなかった。
映画の中で、困難にあい、一人で行きていくと決めた男に惹かれたヒロイン。
彼と思いが通じ合ったものの、彼の事情や家族の反応に直面し、思い合うがゆえにすれ違う二人。
真珠の頬を伝い、細い顎先に出来た透明なパールは、ぽた、と膝の上に置かれた彼女の手の甲に落ちる。
《こんなに綺麗に泣くんだっけ》
もう、何度目かわからないヒロイン役の泣き顔に向けられた主人公のセリフは、まるで、自分の心を読まれたような気になった。
彼女の小さな嘘が、思わぬ方向ヘと発展していく、ありきたりと言えばありきたりだけれど、台詞の言い回しや演出で引き込まれる内容だった。
それ以上に、真珠の涙が侑士の心に残った。
真珠が手に握っているハンカチはとっくに役目を全うしきっている。
そのハンカチを握る手を、そ、と包み込む。
驚いたようにこちらを向いた真珠の目は赤くなっていて、上着のポケットからYの刺繍が入ったハンカチを差し出す。
ふるふる、と左右に頭を振った真珠に握らせ、涙に濡れたハンカチを2人で握る。
《本当の僕に気づいてくれていたのは、その涙だけだよ》
別れを選んだ物語の二人は、その後も近づいては離れていき、二度と交わることはなく、ストーリーは終わった。
エンドロールで目を閉じている真珠の横顔を見つめる。
ゆっくりと開いた睫毛に、まだ、雫がいくつか残っている。
チラホラと席を立ち始める鑑賞者。
目じりの涙を指先で拭った真珠は、ごめんね、と謝った。
「謝ること、あらへん」
「ありがとう」
「残ってんで」
手を伸ばし、瞼の縁の粒を指に拾った。
「透明な、」
「え?」
「透明な真珠(パール)て、あるんやね」
初めて見たわ、と溢れる直前の粒を再度、すくう。
「取れへんのやね」
綺麗やのに、と眉尻を下げて、真珠の目元を擦る。
瞬いた真珠の頬を伝う粒を拾おうとそっと指先で撫でる。
溢れてくる粒を、一つひとつ指先で拾う侑士は、ポツリと零した。
「そこに住めたら、零さへんようできるんやろか」
え、と見上げる、深い栗色の瞳。
頬を包みかけた手は、触れる直前で止まった。
✜
