• テキストサイズ

She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第33章 過去の人



 ✜

「忍足君、かっこいいよね」
はあ、とテニス部の練習を見ている友人に、そう?と言う。

「冷たそうに見えて、優しいじゃん」
「優しいだけじゃない?」

ちら、とテニス部の練習に目を向けると、何やらふざけている様子の向日を見て笑っている。

「結構人気あるんだよ〜」
「見た目がいいだけかもよ?
 案外、付き合ったら蛋白でつまらないかもね」

そうかなぁ、と言う友人に、彼とお付き合いをしていたことは話していない。
彼だって、あんな短期間の交際、無かったことにしてるだろう。

(あの頃は、恋に恋してたなぁ)

思春期の集合体である学内では、誰と誰が付き合ってるという噂が飛び交うようになり、女の子たちの間では、誰がカッコいいとか、付き合いたいとか、今思えば何様なのだと思うランキングが作られていた。
上位に上がるのは、運動部でレギュラーであるとか定期テストの結果発表で名前が挙がる奴で、跡部は言わずもがな、同じテニス部の向日や宍戸なんかも一定の人気があった。

忍足も例に漏れず。
話しかけてくることはないが、話しかければ気さくに返してくれる奴だったので「落ち着いた雰囲気がいい」と言われていた。

忍足と付き合った日と別れた日は覚えている。
7月15日と9月15日。
ぴったり2ヶ月。
終業式の日に付き合って、始業式後に別れたのだ。

夏休みの間、デートしたい、と言った自分に、ええよ、と彼は映画に誘ってくれた。

練習の様子を見たくてコート周辺をうろついていたら、なにしてん?といつも声をかけてくれたが、最後まで端っこでこっそり見てるだけだった。

別れを告げたのは自分だ。

「侑士ってさ、私のこと、好きじゃないよね」
「そないなこと、あらへんよ」

デートは、映画に1回。
図書館で宿題を一緒にしたのが2回。

少し伸びた襟足を撫でる手と繋ぐのは、いつも私から。

付き合って1ヶ月だね、と伝えた時、返ってきたのは、「そうやったっけ?」

なにしてる?とメールすれば、それなりに早く返事をくれたけど、始まりはいつも私で、終わらせるのはいつも彼。

「付き合ってる実感、無い」

そうか、とだけ返した彼。

「ごめん。終わらそ」

わかった、と頷いた彼。

お願いしてからは「サオリ」と呼んでくれていた彼と次に話した時には、当たり前のように「仁井村はん」と呼ばれた。

 ✜
/ 311ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp