She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第31章 策略
「『どうした?』
『声聞きたくて。後で掛けていい?ってメッセージ送ったでしょう?』
『ああ、そうだったな』
『ごめんね、急にわがまま言って』
『いや、いつでもいい』
『ホントは嫌だった?』
『そんなことない』」
侑士の電話の会話を再現するかのような一人芝居を続ける跡部に、おお、と鳳や向日が感心するような声を上げた。
「『今日のメニューは?』
『夕飯?すき焼きかしゃぶしゃか、どっちがいい?』
『どっちも変わらねぇじゃねぇか。他にねぇのか?』
『きずし、作ろうかな』
『いいな、俺も好きだ』
『今日、迎えに行く』
『うれしい』
『着いたらすぐに連絡する、大人しく待ってろ』
『早く来て。でも、事故に気をつけて』
『気をつける。夜に、な』」
どうだ、と言わんばかりの跡部。
「気色悪い」
いややわぁ、と蔑んだような目を向ける侑士。
「俺たちにはそう言う会話に聞こえたぞ」
そうだそうだ!と宍戸の言葉に向日が賛同する。
「わざわざ電話してさ」
「掛かってきたんや」
シレッ、と答えた侑士。
「ふん。どうだかな。
大方、電話してくるように仕向けたんだろう」
「なして言い切れんねん」
「高校生の昼休みに、時間を取らせる電話を予告無しにかけてくるか?
ましてや、あの真珠が」
ああー、と見てくる目線を無視して本を読み出す侑士。
「図星じゃん」
向日に笑われても、表情一つ変えなかった。
「パスケースも、わざと忘れたんだろう?」
「なんで知ってんねん」
「教室から見えてたぞ」
さよか、と頁を捲る。
「恋人がいることを広めておいて、例の件の牽制にしようってことか」
(そこまでお見通しかいな)
例の件?と言う向日に、こっちの話や、と本を閉じて席を立つ。
「ゆーし、もう行くのか?」
「日直や。化学室の支度しとかんと」
「やべっ、移動教室かっ」
忘れてたっ!と慌てて片付ける向日に、先行くで、と手を振る。
(オトンの思い通りになんや、ならへん...)
そんな結婚をしなくても医者にはなれる、と教室まで向かう。
(よぉ知らん子と結婚するくらいなら、縁、切ってもええやろ...)
行ってくるな、と冬にドイツに旅立った父を思い出し、宣戦布告するかのように拳を握る。
(今まで言うこと聞いてきたやろ。
いっちゃん大事ん事は、自分で決めるわ)