She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第30章 姉と恋人
おはよう、と送ったメッセージに返事が無い。
休講日なので大学に行く必要はないが、侑士には会いたいな、といつも通り支度をしていたら、連絡をよこしたのは恵里奈。
-ゆうちゃん、熱発でバタンキュー-
本日 店休日と書かれた看板から、ごめんやで、と顔を覗かせる白い犬。
-あらら。どんな様子?-
どのくらいの熱なんだろうか?と心配していると、そうかからず、今度は写真が届く。
それは、丸くなったブランケットが乗る忍足家のリビングのソファ。
再び届いた写真には、そのブランケットに包まる、眼鏡をかけていない侑士の寝顔。
目を閉じた表情が、わずかに険しく見える。
-今日はママいるから、大丈夫!-
よかった、一人じゃないんだ、と安堵する。
-マコト呼ぶ?聞いたら、『呼ばんでええ』だって-
やれやれ、と首を振る白い犬。
-弱っとるとこ、見られた無いんやろ-
添えられた、にや、とした笑顔の白い犬に、甘えてほしいのに、と嘆息すると、今度は侑士からメッセージが届く。
-脚痛むから、病院行く。
通学、気をつけや-
スマン、と耳を垂らす黒い犬のイラスト。
たぶん、侑士は恵里奈が先に連絡をくれたことを知らないんだろうと、しばらく考えて返事する。
-お大事に。
無理なされませんよう-
無難に返事をして、お見舞いには行けるが、本人が望んでいないなら行かないべきかな、と考える。
どうしようかな、とパジャマのまま私室を出る。
先に起きている父と母に、おはよう、とあいさつして茶器を用意する。
「あなた、今日大学は?」
「教授の都合で講義振替になったら、1日フリーなの」
あっそ、と言う母。
お湯が沸いているのを確認して、茶葉を急須に入れる。
「図書館は行かへんの?
休みでもいつもん時間バス乗っていきよったやん」
まだ侑士との付き合いを両親に話していなかった頃、そう言って早い時間のバスに乗っていた。
「ゆう、熱出しちゃって今日休むの」
だからバスも乗らない、と蒸らしたお茶を湯呑みにうつす。
「あら、大丈夫なの?」
「わかんない。
あ、ねえ、甘酒ある?調月の」
小瓶やったらあるよ、と母が戸棚から出したそれ。
「もらっていい?」
「風邪やったらよう効くよ」
侑士君に飲ましたり、と笑う父に、ありがとう、と笑って、大事に瓶を抱えた。